国際シンポジウムより


KTCC国際シンポジウムより


桂 義元Yoshimoto Katsura● 日本大学医学部,東京医科歯科大学

 

 Kyoto T Cell Conference (KTCC) の年会は今年で第12回目となり, 今回は国際ワークショップとして本年4月3日〜 5日,京都平安会館で開催した.国際会議としては1993年,1997年に次いで3回目である.学術集会には,新しい情報の交換または収集と関連分野の研究者との交友という役割がある.情報収集には大きな学会が有利であるかもしれないが,交友は小さな集会の方がやりやすい.KTCC は交友を重視しているので100人をあまり超えない規模に制限している.しかし,情報を軽視してきたわけではない.情報を受身にとらえるのではなく,KTCCとしての目標に会う情報を集めて活用することを重視している.

 KTCC の基本テーマは,胸腺とT 細胞の生成である.T細胞生成といえば一見単純な過程のように思えるが,胸腺内だけをみても実に多様な分化,増殖,系列決定,さらにこれらを支える細胞との一連の相互作用がある.それでいて,胎仔マウスを例にとれば,1 個の前駆細胞が胸腺環境に入っただけですべての細胞を作り出すことができる.胸腺あるいはT 細胞系全体を一つの臓器と考えれば,T 細胞生成というのは臓器形成における細胞分化の全体像を解明するという生物学の根源に迫る格好の実験システムであるといえる.

 国際ワークショップのセッションテーマは1997年のときと基本的には同じで, 中心となるのはT細胞分化と胸腺環境である.前駆細胞からの分化プロセスは,従来は正,負の選択とTCRβ鎖再構成後の増殖( 約1,000倍)という部分しか分かっていなかったが,前駆細胞の胸腺移行前でのT系列へのコミットメント, TCRβ鎖再構成前の増殖(約1,000 倍),胸腺内におけるNKおよび樹状細胞系列への分岐点(以上Kawamoto,LuおよびIkawa,Kyoto),さらに成熟したT細胞の胸腺からの移出,二次リンパ器官への移住などの分子機構(Takahama,Tokushima;Fukui,Kyushu)が明らかにされ,T 細胞分化プロセスの全体像がみえてきた.

 一方,胸腺環境に関する知見はなお断片的な域を出ていない.胎仔胸腺臓器培養系で, 胸腺環境の成熟にはT前駆細胞の存在が不可欠であることが示された(van Ewijk, Rotterdam)が,そのメカニズムは不明である.
Wnt → frizzledシグナルが胸腺上皮の分化に重要であることが示された(Hollander,Basal)が,これもT細胞分化誘導との関連は不明である.Boydら(Monash)による胸腺上皮細胞の前駆細胞の同定は最近のちょっとしたトピックスではあるが,T 前駆細胞側の研究の進展度と比べるとはるかに未成熟である. 初期分化において,T 前駆細胞が分化段階の進行と共に胸腺内の存在位置を変えることを示したPetrie(New York)の仕事は,今後の胸腺環境の研究の指針となるであろう.

 初期分化ではいが,正負の選択の段階で未成熟T 細胞とストローマ細胞がシナプス(immune synapse)を形成することが示された(Owen,OMRF; Anderson,Birmingham;Udaka,Kyoto).また成熟T細胞と抗原提示細胞との相互作用におけるシナプス形成の分子機構について,adapter protein Cpb の関与( Saito,Chiba )やFynの役割(Kosugi,Osaka)が報告された.今回は転写因子K.O. マウスを利用した研究はあまり報告されていない.転写因子K.O.マウスの研究が将来的には重要であることは言うまでもなが,従来は必ずしも大きな貢献をしてこなかった.すなわち,分化プロセスに関する理解が殆どないままに,K.O.マウスのデータから逆に分化プロセスを推論するということを重ねることによって,混乱を助長した面がある.今回報告されたE47 K.O.マウス(Murre,UCSD)では,E47 がRAG2 遺伝子の発現をコントロールしていることが示された.これは重要な発見であろう.問題点をあげれば,E47がT 系列へのコミットメントをコントロールするという解釈が付け加えられていることである.この種の無理な解釈は混乱をもたらす原因となりかねない.

 Notch1遺伝子をCre-lox系を用いていろいろの分化段階でK.O.した実験結果が提出された(MacDonald,Lausanne).たとえば造血幹細胞段でK.O.すると,T細胞分化が完全に停止して, さらに胸腺内にB細胞が出現するという.この結果は,T,B共通の前駆細胞が胸腺へ移住して,そこで運命が振り分けられるというモデルに基づいて解釈されているが,その土台となるモデルは実証されたものではない.分化プロセスに合った解釈を導入すれば,さらに先に進めるシステムである.

 胸腺内分化を経て,末梢へ移行した後のT 細胞の,さらなる分化や機能に関する優れた研究もいくつか提出されたのであるが,紙面の都合で割愛する.今年度から,垣生園子先生(東海大)にKTCCの代表を引き受けていただくことになった.新たな転開を期待したい.

 

previ_bt.gif (804 バイト)index_bt.gif (792 バイト)next_bt.gif (1092 バイト)


推奨ブラウザ:
Netscape Navigator(Comminicator)4.x以降、Microsoft Internet Explorer3.02以降の各日本語版。
Page Copyright (C) 1996-2004 Japanese Society for Immunology. All Rights Reserved.
最終更新日: 2003/01/24 JST