NPO法人日本免疫学会の設立について

 

日本免疫学会会長 高津 聖志

学会あり方検討委員会委員長 斉藤   隆

 

 

 日本免疫学会は、それまで独自に活動してきた「免疫化学研究会」と「免疫生物学研究会」が連携して活動することになり、学会として設立され、1971年に第一回学術集会が開催されました。その後、国際免疫学会連合に加盟し、1983年には京都で第5回国際免疫学会を主催しました。以来33年間を経た今日、日本免疫学会は会員数6000人余りを抱える日本有数の学会に発展し、2010年には再び日本で国際免疫学会が開催されることが決定されました。こうした歴史的発展の中で、このたび、日本免疫学会は、これまでの任意団体から法人設立を行うこととなりました。つきましては、これに至る状況と法人設立の理由について説明させて頂きたいと思います。

 

  1. 経過
     以前より、日本免疫学会を法人化する提案が話し合われてきました。社会的認知度が高く、税制上で優遇される公益法人(財団法人、社団法人)がこの場合に相当しますが、多額の資金を保持する必要があり、その法人格取得は極めて厳しく、メリットがあまり無いという判断によって、法人化への案は消極的になりました。ところが、近年、特定非営利活動促進法(平成10年)、中間法人法(平成13年)が公布され、公益法人制度の基本的改革に向けた閣議決定を受けて、関連制度の抜本的・体系的な見直しが行われ、学会も公益法人以外の法人として設立することが可能な社会的・法的環境が急速に整ってまいりました。折しも、本年8月に日本免疫学会が学会事務業務を委託していた日本学会事務センターが経営破綻するという事態となり、緊急に日本免疫学会の事務のあり方および学会としてのあり方を、改めて問い直す事態に直面することになりました。
  2. 法人の種類
     日本免疫学会が法人設立(法人格取得)をするためには、まず、公益法人、中間法人、特定非営利活動法人(NPO法人)の3種類のいずれかを選択することになります。公益法人は、上述のように現実的に実現が極めて困難です。NPO法人と中間法人の主な違いとしては、以下の3点が挙げられます。第一は、税金の違いです。学会が法人化して、保有財産を現在の学会から移行すると、中間法人の場合には約40%~50%の課税になりますが、NPO法人は課税されません。また中間法人では、年会費も収益事業と見なされ課税対象になります。第二の違いは、入会制限で、中間法人の場合には、会員を「医師のみ」のように制限することができますが、NPO法人は「特定非営利活動」のために対象を制限することはできず、誰でもが入れることが建前となっています。第三の違いは、設立費用で、中間法人は基金が300万円以上必要ですが、NPO法人では費用は不要です。
  3. 任意団体 vs 法人
     免疫学会がそのまま任意団体として存在することの可能性については、不可能ではありませんが、以下の理由から得策ではないと考えられます。平成18年3月には、公益法人(財団法人・社団法人)が廃止される公益法人改革が行われることが決定されております。非課税対象の範囲は未定ですが、公益法人と中間法人が一本化して非営利法人として再編成され、これまでのような優遇措置はなくなり、一般の会社とほぼ同じ立場となると予想されています。この際、殆どの法人が課税対象になると考えられ、通常の学会がその対象外になるのは極めて難しいと思われます。NPO法人はこれとは別枠ですが、この改革に伴ってどのようになるかは未定です。その時点では、現在のような比較的ゆるやかな条件でNPO法人を設立することが難しくなる可能性も考えられています。さらに、この公益法人改革の次には、恐らく、曖昧性の高い任意団体の整理に進み、 これまで課税を免れていた任意団体も課税の対象になると考えられています。
     このように、2年後の公益法人改革の前に、日本免疫学会も任意団体を止め、NPO法人を設立することが、長期的に見ると正しい選択になると考えられます。
  4. NPO法人への課税
     課税が法人選択の一つの大きな基準になっていますが、NPO法人にも課税されるものもあります。通常の学会事務と学術集会については、これまでと同様に非課税ですが、事業収入には対しては課税されることになります。対象として、一例としては出版事業があり、日本免疫学会ではInternational Immunologyの刊行をOUP (Oxford University Press) を通して行っており、その収入は事業収入にあたります。しかし、ほぼ同額の必要経費があるため、相殺されて課税額は少ないと思われます。また、興行収入についても、通常のシンポジウムなどは非課税のままですし、会報・機関誌も無税です。NPO法人はあくまで公益性が重要であり、学会内部の会員相互の共益性のみを目指すことでは理解が得られません。このために一般市民向けの講演会などを企画することが極めて重要になってきますが、免疫学会では既に学術集会開催時に一般市民向け公開講座を行ってきていますので、問題はありません。

 

 以上のような状況を踏まえて、免疫学会あり方検討委員会を中心として議論を尽くし、その結果を免疫学会会長に諮問し、それを受けて、日本免疫学会理事会は、日本免疫学会が任意団体を止め、できるだけ早い時点で、特定非営利活動法人(NPO法人)を設立することが妥当である、と判断しました。さらに、これに伴って、学会事務センターが破綻した事態のもとに、日本免疫学会専任の職員を配置した独自の学会事務局を設置して、学会業務・事務運営を推進してゆく必要がある、ことを決定しました。

 会員各位におかれましては、諸事情をご賢察の上、特定非営利活動法人(NPO法人)日本免疫学会の設立にご支援・ご協力のほど、宜しくお願い申し上げます。