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一般の方へ

新型コロナウイルスワクチンについて

日本免疫学会理事長からのメッセージ

特定非営利活動法人 日本免疫学会

第22代理事長 小安 重夫

このメッセージでは、新型コロナウイルスに対するワクチンに関して解説します。さらに、なぜワクチンが効くのかその理由(免疫システムの仕組み)に関しても説明します。

  • 新型コロナウイルス感染症が世界中で流行しています
新型コロナウイルス(出典:京大ウイルス再生研)
新型コロナウイルス(出典:京大ウイルス再生研)

 新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、私たちの社会を大きく変化させました。この病気を引き起こすウイルスは、もともとはコウモリのウイルスでしたが、何らかの理由で人間社会へ入り込んできました。このウイルスはコウモリには病気を引き起こしませんが、人間のからだの中では病気を引き起こしてしまいます。似た形をしたコロナウイルスによる感染症に、2003年に流行したSARS(サーズ)があります。ただ、この時のウイルスは強力だったので感染した人全員が病気になり、半数近くが死に到る病気でした。したがって病気の人を隔離し、追跡することで約半年で流行を収束させることができました。一方で、今回の新型コロナウイルスは、形はサーズに似ていますが、感染しても病気にならない人が沢山います。特に、若くて活動的な人は病気にならない傾向が強いようです。そのために知らないうちに周りの人に移すことで病気が広がり、一度流行が広がってしまうとなかなか収束しないのはご存じの通りです。また、味覚障害、嗅覚障害やうつなど、軽症でも後遺症が報告されていることにも注意が必要です。

  • 感染拡大を止め、重症化を防ぐためにはワクチン接種が有効です

 新型コロナワクチンは、私たちのからだを病気から守っている免疫システムに新型コロナウイルスを覚えさせるためのものです。免疫システムは、別に詳しく述べるように、一度この新型コロナウイルスを覚えると、次に新型コロナウイルスが体に入ってきたときに、とても上手に新型コロナウイルスを殺して、からだから取り除くことができます。そのためワクチンは新型コロナウイルスから私たちのからだを守る力を強くする、とても有効な方法なのです。一般には、ワクチンの開発には数年から10年以上の時間がかかり、安全性と有効性を確立して承認されます。しかしながら、新型コロナウイルスワクチンの開発は驚くべきスピードで進み、新型コロナウイルスが発見されてから1年足らずでさまざまなワクチンが安全性と有効性を認められ、ワクチン接種が世界中で行われています。日本でも接種がはじまりました。

 日本で接種が始まったファイザー社のワクチンは、ウイルス表面にあり人間の細胞に入り込む時に使われるタンパク質の設計図(mRNA、メッセンジャーRNA)を使ったワクチンです。このワクチンは今全世界で接種が進められていますが、これまでに高い有効性が示されています。約40,000人が参加した臨床試験では、ワクチンを接種しなかった人から162人の発症者が出たのに対し、ワクチンを接種した人からは8人しか発症者が出ず、90%以上(8/162=0.05。これは95%の有効率)の効果が確認されています。

 一方で副反応も報告されていますが、ほとんどは接種部位の腫れなど軽微なものです。接種直後に最も注意すべき副反応は、アナフィラキシー呼ばれる全身性の強いアレルギー反応の一種ですが、これは、今回のmRNAワクチンの場合、約190万人に接種して21人と報告されています(10万人に1人程度)。アナフィラキシーは、症状がでてからすぐにエピネフリンという薬を投与することで治療できます。新型コロナウイルスやワクチンに関する最新の情報は厚生労働省のホームページを参照して下さい。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_yuukousei_anzensei.html#h2_free1

  • ワクチン接種を広げることが新型コロナウイルス感染症制圧の鍵です
集団免疫が成立する仕組み         
集団免疫が成立する仕組み         

 新型コロナウイルス感染症の流行の収束と重症化予防には、ワクチン接種がとても大切な道筋です。私も自分の番が回ってきたらすぐに接種するつもりです。

 ワクチン接種が進んでいる他国の例を見ると、ワクチンの効果が出てくるまでには少し時間がかかっています。しかし、必ず効果が現れてきます。どういう効果かというと、万が一ウイルスがからだに入っても病気にならない、あるいは病気になっても重症化せず、軽いかぜ程度で済んでしまう、そういう効果が現れています。ワクチンによって私たちのからだの免疫システムが新型コロナウイルスの特徴をしっかり覚えこむまでには、接種してから10日から2週間くらいは必要です。また、しっかりと記憶させるためには2回の接種が大事です。

 大切な点は、ワクチン接種が進めば直ちに新型コロナウイルスの流行が収束し、以前のような生活が戻るのかというと、そうはならないだろうということです。ワクチン接種が始まったからといって直ちに感染者数が激減することは期待できません、しかし、接種が進んでいる国では感染者数は確実に減少しています。ワクチンが効果を最大限に発揮するためには、社会の中の多くの人が接種を受け、自分のからだの免疫システムに新型コロナウイルスをしっかり覚えさせて、体の中で新型コロナウイルスと戦える新型コロナウイルス専用のリンパ球を増やし、新型コロナウイルスをからだから取り除くことができる抗体を作るようになることが必要です。すると、社会全体が新型コロナウイルスに対する免疫を獲得することができ、感染が広がりにくくなり、重症化して亡くなる方が減少します。これを集団免疫と呼びます。

 これらのことから、ほんの一部の人だけがワクチン接種を受けて新型コロナウイルスに免疫を持つようになったとしても、感染拡大はなかなか止まらないだろうということはお解りいただけるかと思います。より多くの人が接種して初めて、ワクチンを接種していない人への感染リスクが減り、また重症化による医療機関のひっ迫や、緊急事態宣言下のような様々な行動制限を避けることができるのです。新型コロナウイルスをどれだけ私たち人類が制圧できるかは、ワクチン接種率が大きな鍵となることを、どうぞ忘れないでください。そして、社会的な効果が現れるまでにも一定の時間がかかることをご理解下さい。したがって、当分の間は、これまでどおり、マスクの着用、徹底した手洗い、ソーシャルディスタンスの確保、3密の回避、マスク無し会話の回避などを行って、感染予防につとめていただくことが大事です。

 

 ここまで読んでいただいて、ワクチン接種がどれだけ重要かをご理解いただけたかと思います。次の項目(免疫システムの仕組み)で、私たちのからだがどのようにして感染症を防いでいるのか、そしてワクチン接種によってなぜ病気にならない、あるいは病気になっても重症化しないですむのかを説明します。それがわかると、なぜワクチンが私たちを感染症から守ってくれるのかをもっとよくわかっていただけることと思います。

 

作画:河本 宏(京大ウイルス再生研)