日本免疫学会賞

JSI Award

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歴代受賞者

第26回(2023年)

岡崎 拓免疫チェックポイント分子による免疫制御機構の解明

(東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野)

<研究評価の内容とその理由>

岡崎拓氏は免疫チェックポイント分子を基軸とした免疫制御機構の研究を一貫して進め、数多くの世界的な成果をあげてきた。PD-1の研究では、リガンドの同定、シグナル伝達機構の解析、PD-1欠損マウスに発症する自己免疫疾患の解析等を通じてPD-1が免疫応答を抑制する免疫補助受容体であることを世界に先駆けて明らかにした。また、同じく抑制性受容体としてLAG-3の機能解析、リガンドの同定により、免疫抑制受容体による免疫制御の理解に大きな貢献をした。さらに、PDL-1とCD80のシス結合による新たなPD-1機能制御機構の存在を明らかにし、新規自己免疫疾患治療法開発の可能性を示したことは、特筆すべき成果といえる。岡崎氏は、免疫補助受容体群によるT細胞活性化制御のネットワークシステムの理解と制御、それによる疾患治療法の創出等を目指しており、今後の展開が大いに期待される。

第25回(2022年)

石井 優免疫炎症・骨破壊の動態解明

(大阪大学大学院医学系研究科 免疫細胞生物学教室)

<研究評価の内容とその理由>

石井優氏は免疫内科医として間接リウマチにおける炎症性骨破壊のメカニズムに興味を持ち、骨を破壊・吸収する特殊なマクロファージである破骨細胞の研究を進める中で、従来困難であると考えられていた骨組織・骨髄腔の内部を顕微鏡システムや光学系を改良することによって生きたままの細胞を可視化することに世界にさきがけて成功した。これらを駆使した高いライブイメージング技術とその応用の数々は特記すべき成果といえる。炎症性骨破壊の場における様々なメカニズムの解明にとどまらず、様々な疾患特異的な細胞を独自技術の生体可視化系と最新の技術を駆使することによって同定し、新たな病態機序の解明に加えて関連するヒト免疫細胞の同定、しいては疾患の治療につながることが期待される。

第24回(2021年)

堀 昌平「制御性T細胞による免疫制御機構の解明

(東京大学大学院 薬学系研究科免疫・微生物学教室)

<研究評価の内容とその理由>

堀昌平氏は制御性T細胞を基軸にして、免疫学的自己寛容と免疫恒常性の確立・維持機構の解明という免疫学における本質的な課題に一貫して取り組んできた。その中でも制御性T細胞のマスター転写因子であるFoxp3を同定したことは、本学術領域の金字塔とも言える。堀氏は研究者として独立後も、制御性T細胞の可塑性と系列安定性や、非リンパ組織における制御性T細胞の役割の解明、組織における制御性T細胞の分子基盤としてのBATFを同定し組織としての適応の意義を明らかにした。これらの成果は国内外に広く認められており、本領域における世界的なリーダーの一人であることは疑いない。堀氏は今後も免疫自己寛容の原理という免疫学における喫緊の重要課題の解明や、抗原特異的免疫応答の操作を介した臨床への応用にも貢献することが大いに期待される。

第23回(2020年)

竹内 理自然免疫による病原体認識とその制御機構の解明

(京都大学大学院医学研究科 分子生体統御学講座医化学分野)

<研究評価の内容とその理由>

竹内理氏は、Toll-like receptorやRIG-I-like receptor等のパターン認識受容体による病原体認識とシグナル伝達経路の解明で、数多くの世界的な成果をあげてきた。また、RNA分解酵素Regnase-1に代表される転写後制御が、免疫応答の適正化に必要不可欠であることを世界に先駆けて解明し、これによって独創性の高い新たな研究分野を開拓した。その後も、ヒトHIV-1 RNAを分解する新規分子N4BP1の同定、ヒト潰瘍性大腸炎上皮におけるRegnase-1リン酸化配列の変異など、転写後制御研究を推進・発展させている。竹内氏は、炎症性疾患や感染症における転写後制御機構の解明ならびに制御法の開発を目指しており、今後の展開が大いに期待できる。

長谷 耕二「粘膜免疫応答の制御機構の解明」

(慶應義塾大学薬学部・薬学研究科 生化学)

<研究評価の内容とその理由>

長谷耕二氏は、腸管免疫制御の研究を一貫して進め、数多くの画期的な成果をあげてきた。まず、パイエル板に存在するM細胞の特異的マーカーを同定しその機能を解明するとともに、大腸の制御性T細胞はUhrf1によるDNAメチル化の維持によりその機能と増殖が制御されていることを見出した。続いて、絶食時にはパイエル板のナイーブB細胞は骨髄に退避するが食事再摂取後には速やかにパイエル板に帰巣するという、栄養シグナルと腸管免疫応答の制御機構を明らかにした。さらに、母胎腸内細菌が産生した短鎖脂肪酸が胎児に移行して生後の肥満感受性に影響を与えることを見出した。以上のように、長谷氏の研究は、腸管免疫系の制御に関する分子的な裏付けを明らかにしてきたという点に加えて、これまで想定されていなかった腸管免疫系による胎児の疾患感受性の制御、および腸管と骨髄の臓器連関について明らかにしたところが特筆に値し、今後のさらなる研究の拡がりが大いに期待される。

第22回(2019年)

石井 健「ワクチンアジュバントのメカニズム解明とその臨床応用」

(東京大学医科学研究所 感染免疫部門 ワクチン科学分野)

<研究評価の内容とその理由>

石井健氏は、ワクチン開発に不可欠なアジュバントの免疫賦活機構の解明に取り組み、世界的な業績をあげると共に、核酸アジュバントの応用開発を一貫して進め、我が国のみならず世界におけるワクチンアジュバント研究の第1人者として、この分野をリードしてきた。特に、ヒト型CpGDNAの同定は、その基礎研究成果を基に、マラリアワクチンへの臨床試験に導き、CTL増強作用の強い新規第2世代核酸アジュバントの開発は、がんワクチンへの応用展開を目指している。ヒトへの臨床応用を積極的に見据えて、マウスでの分子基盤研究を推進させ、核酸認識による自然免疫活性化機構に関して戦略的な研究を展開してきた石井氏の研究は、比肩する者はなく、次世代のワクチン開発に向けて、今後もさらなる発展が期待できる。

椛島 健治「皮膚を場とした免疫ダイナミズムの分子基盤の研究」

(京都大学大学院医学研究科 皮膚科)

<研究評価の内容とその理由>

椛島健治氏は、大学院生時代から今日まで一貫して皮膚の免疫応答に関する研究を行ってきている。これまでに、皮膚における脂質メディエーターによる獲得免疫調節作用、皮膚の免疫学的ホメオスタシス維持機構に関する研究を行い、最近では、皮膚において誘導されるリンパ組織様構造(inducible skin-associated lymphoid tissue (iSALT))の生理的意義の解明に貢献した。一方で、皮膚の難治性掻痒感を対象に免疫細胞が産生するIL-31を標的にした国際共同第2相臨床試験を成功させるなど、臨床研究についてもリーダーシップを発揮している。椛島氏は、皮膚という固有臓器を超えたバリア組織における免疫応答の多様性やダイナミズムを理解する分子基盤を築きあげてきた。皮膚免疫学領域の基礎研究と臨床研究において今後も更なる発展が大いに期待される。

第21回(2018年)

山崎 晶「免疫受容体による異物識別機構の研究」

(大阪大学微生物病研究所 分子免疫制御分野)

<研究評価の内容とその理由>

山崎晶氏は、Immunoreceptor tyrosine-based activation motif (ITAM)を有する免疫受容体についての解析を一貫して進め、顕著な業績を上げてきた。T細胞受容体や、FcεRI受容体について、シグナル伝達経路と誘導される多様な応答との関係を明らかにした後、C型レクチン受容体についての解析に研究を展開させてきた。山崎氏はC型レクチン受容体Mincleのリガンドが結核菌のコードファクターであること、さらに、MCL、Dectin-2、DCARなどのC型レクチン受容体も結核菌由来の糖脂質をリガンドとして認識していることを見出した。この「結核菌受容体クラスター」の解明は新規ワクチン開発に貢献することが期待される。さらに、病原体由来の糖脂質リガンドに続いて、自己由来のリガンドの解析も進めている。免疫システムにおける認識識別機構は、非自己である病原体に応答すると同時に、自己に対する免疫応答を回避する必要がある。山崎氏の研究は、C型レクチン受容体において、自己、非自己が如何に認識され、識別されているのかを解明するものであり、今後の発展が大いに期待される。

第20回(2017年)

高岡 晃教「微生物感染に対する自然免疫応答の分子基盤の解明」

(北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野)

<研究評価の内容とその理由>

高岡晃教氏は、自然免疫系のサイトカイン応答に関するシグナル伝達機構について傑出した成果を挙げてきた。まず、I型IFNとp53が協調して抗ウイルス作用と抗腫瘍作用を担っていることを示し、I型IFNが感染やがんに対する生体防御を維持するための分子基盤を明らかにした。さらに自然免疫応答におけるIRF(IFN-regulatoryfactor)転写因子の役割を明らかにし、IRF-IFN系の活性化を引き起こす細胞質DNA認識受容体DAIを同定した。また、B型肝炎ウイルスに対する免疫センサーを同定しIII型IFN誘導をもたらすシグナル経路を明らかにするとともに、ADPリボシル化酵素がその制御に関与していることも示した。高岡氏は現在自身の成果に基づいて積極的に臨床への応用開発研究も推進しており、今後の更なる発展が期待できる。

第19回(2016年)

高柳 広「骨免疫学による自己免疫疾患の研究」

(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻免疫学講座)

<研究評価の内容とその理由>

高柳広氏は、世界にさきがけて骨組織の制御における免疫系の重要性を示し、骨や滑膜等の末梢組織と免疫系の相互作用に注目し、骨免疫学 (オステオイムノロジー Osteoimmunology)と呼ばれる分野を発展させてきた。T細胞が産生するサイトカインが破骨細胞分化を制御することを見出し、さらにFc受容体などの免疫シグナルが破骨細胞の分化や機能を制御してことを発見した。また関節リウマチなどの自己免疫疾患を促進するTh17細胞にとって重要な転写因子や胸腺における負の選択機構に関与する新しい転写因子を報告している。このように高柳氏は骨免疫学の発展に多大な貢献をなしただけでなく、免疫寛容機構に関して重要な発見を行っており今後もさらなる発展が期待できる。

第18回(2015年)

本田 賢也「腸内細菌による免疫系制御機構の解明」

(慶應義塾大学 医学部 微生物学免疫学教室)

<研究評価の内容とその理由>

本田氏は、特定の腸内細菌を定着させる古典的なノトバイオート技術に最先端のメタゲノム解析技術を組み合わせた統合的アプローチにより、これまで不明であった腸内細菌と宿主免疫系の相互制御について画期的な業績をあげてきた。まず、腸内細菌の一種セグメント細菌がマウス小腸でTh17細胞を誘導することを発見した。続いて、マウス大腸の制御性T細胞の誘導を司る腸内細菌としてクロストリジウム細菌を同定した。さらに、ヒトの腸内細菌の中から大腸の制御性T細胞の誘導を司るクロストリジウム細菌群も同定した。そしてこれらの基礎的な成果を基盤として、腸内細菌叢を用いた新規創薬の開発を目指した研究を展開している。世界に先駆けて獲得免疫系の発達に関わる特定の腸内細菌を同定した研究成果は独創性が極めて高く、今後の発展が大いに期待される。

第17回(2014年)

安友 康二「免疫難病の克服に向けた免疫調節の維持・破綻機構に関する研究」

(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 生体防御医学分野)

<研究評価の内容とその理由>

安友氏は、「NotchシグナルによるTリンパ球の分化・活性化制御機構の解明」において世界的な研究業績を次々とあげるととともに、小児科医のバックグラウンドを生かして「家族性に発症する自己免疫疾患や自己炎症性疾患など免疫難病の原因遺伝子の同定」を精力的に推進し、ヒト免疫学の発展に多大な貢献をしている。 従来、胸腺内でのTリンパ球の分化に重要であると理解されていたNotchシグナル系が、実は成熟Tリンパ球やNK細胞のエフェクター機能をも制御していることをはじめて明らかにし、さらに消化管マクロファージの機能制御への寄与も解明し、「Notchと免疫細胞の機能制御」研究の先駆者として、この分野を牽引している。一方、免疫難病患者の遺伝子解析を進め、DNA分解酵素の遺伝子変異に起因する全身性エリトマトーデスの症例ならびに免疫プロテアソームの遺伝子変異に起因する自己炎症性疾患の症例を世界に先駆けて発見し、ヒト免疫系の恒常性の維持機構とその破綻による免疫難病発症機構の解明に強いインパクトを与えた。このように、マウスを用いた基礎的免疫研究とヒト免疫疾患の研究を両輪とした研究スタイルは極めて重要かつ強力であり、今後のさらなる研究の発展が大いに期待される。

第16回(2013年)

谷内 一郎「転写因子によるT細胞分化制御機構の解明」

(理化学研究所・IMS-RCAI 免疫転写制御研究グループ)

<研究評価の内容とその理由>

谷内一郎氏は、サイレンサーによるT細胞の分化系列決定機構の研究における我が国の第一人者である。谷内氏はまずCD4遺伝子のサイレンサー結合因子としてRunxファリミーを世界に先駆けて同定し、この研究領域に格段の理解と発展をもたらした。次にヘルパーT細胞のマスター転写因子ThPOKの制御にもRunxが関与する可能性を着想し、ノックイン変異導入を駆使した先進的アプローチにより、ThPOKとRunxが相互拮抗的な抑制を行うことを証明し、これがヘルパー/キラーの分化を決定する中心機構であるという重要な概念を確立した。これらの業績は国際的にも高く評価されているところである。最近ではこの相互拮抗的な抑制を経た分化決定に可塑性があることを示すなど、この領域の研究に大きなインパクトを与え続けている。今後はまだ同定されていないTCRとThPOKを繋ぐ分子スイッチの探索や、分化可塑性の維持と系列の安定化という相反的な課題の追究など意欲的な展開を目指しており、今後の研究の発展が大いに期待される。

第15回(2012年)

Fagarasan, Sidonia「IgA synthesis: a form of functional immune adaptation extending beyond gut」

(理化学研究所・RCAI 粘膜免疫研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

Sidonia Fagarasan氏は、日本において一貫して消化管粘膜免疫の研究を行ってきた。その中で腸管免疫組織における恒常的なIgA産生が免疫系と腸内細菌との共生およびそれに基づく全身免疫系の機能の恒常性の維持に必須の要素であることを世界に先駆けて証明している。特に、氏は早くから腸内細菌の形成と免疫系との相互作用に着目し、2002年にすでに腸内リンパ組織でのB細胞体細胞突然変異と腸内細菌の形成に関する卓越した研究を報告している。その後も腸管免疫系と全身免疫系との相互作用を視野に入れた研究を行っている。IgA産生調節機構の研究に関して我が国を代表する研究者であるFagarasan氏は、現在、腸管免疫系と全身免疫系との相互作用を視野に入れた研究を展開し、腸内細菌と自己免疫疾患などの難治性炎症疾患の発症機構に関する研究も進めており、今後の発展が大いに期待できる。

第14回(2011年)

荒瀬 尚「ペア型レセプターによる免疫制御機構の研究」

(大阪大学・免疫学フロンティア研究センター・免疫化学)

<研究評価の内容とその理由>

荒瀬尚氏は、NK, NKT細胞の機能、更にその認識機構・活性化機構についての研究を一貫して進めてきた。NK1.1分子を指標にしてNKT細胞を同定し、この細胞群が通常のT細胞とは異なる機能をもった細胞であることを示した業績、NK細胞が“ペア型活性化レセプター”を用いてウイルス感染細胞を認識しているという画期的な発見、更に、NK, NKT細胞上に発現している活性化型レセプターがITAM構造をもった分子と複合体を形成し、細胞内にシグナルを伝達していることを示した業績など、特筆されるべき数々の成果を挙げてきている。これらの成果に基づき、最近はウイルスの感染機構を水痘帯状疱疹ウイルス・単純ヘルペスウイルスの系を用いて解明し、今後の研究の発展が大いに期待される。

第13回(2010年)

河本 宏「造血幹細胞からT前駆細胞にいたる系列決定過程に関する研究」

(理化学研究所・RCAI 免疫発生研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

河本宏氏は、造血幹細胞からT細胞へ至る分化過程に関する研究に取り組み、T細胞分化の系列決定に関する重要な業績を挙げた。河本氏は、まず独自のアッセイ系を開発することで、胎生期の造血前駆細胞集団にはT細胞分化能とミエロイド系分化能を保持した前駆細胞やB細胞分化能とミエロイド系分化能を保持した前駆細胞は検出されるが、T細胞分化能とB細胞分化のみを保持した細胞は検出されないことを発見した。この実験事実は、それまで信じられていた古典的モデルでは説明できないことから、これまでの常識を塗りかえる「ミエロイド基本形モデル」を提唱した。このモデルに対しては強い反発があり、すぐには受け入れられなかったが、河本氏はその後も様々な解析手法を動員し、このモデルが成体期造血においても成り立つことを証明し、ミエロイド基本形モデルが普遍性を持つことを示した。その間には、胸腺に移住する細胞がT細胞前駆細胞であることを示し、その細胞の表面抗原の特徴などを明らかにした。さらに最近では、T細胞分化能とミエロイド系分化能を保持した前駆細胞がミエロイド系分化能を失ってT細胞への系列決定が起こる際に機能する必須の転写因子の同定にも成功している。多くの競争相手のいる分野で、定説を覆す研究を長年にわたって続けてきた独創性は際立っており、今後も一層の研究の発展が期待される。

第12回(2009年)

改正 恒康「樹状細胞機能制御の分子基盤」

(理化学研究所・RCAI 生体防御研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

改正恒康氏は、Toll様受容体(TLR)と会合するアダプター分子としてMyD88だけが知られていた頃、自然免疫と獲得免疫を包括的に捉える目的で、樹状細胞研究に着手し、まず、MyD88欠損マウスを用いて、LPS刺激(TLR4シグナル)により樹状細胞がMyD88非依存性のシグナル伝達経路の刺激で表現型において成熟分化すること突き止め、MyD88非依存性経路の生物学的意義を示した。さらに、MyD88欠損マウスにおいて、樹状細胞の機能異常を見出し、その結果Th1/Th2バランスがTh2にシフトしていることを明らかにするなど、TLRによる樹状細胞機能制御機構について先駆的な仕事を行った。続いて、樹状細胞サブセットのTLR応答解析を進め、特に、4種類のIκBキナーゼ(IKK)ファミリーメンバーの中で、唯一、自然免疫シグナルにおける機能が確定していなかったIKKαに着目した。既に、氏はIKKαがB細胞の成熟、分化に必須であることから、獲得免疫における機能的意義を明らかにしていたが、さらに、このIKKαが樹状細胞サブセットの内形質細胞様樹状細胞(pDC)において、転写因子IRF-7と結合し、IRF-7を活性化することにより、TLR7/9刺激によるI型IFN産生誘導に必須の役割を果たしていることを明らかにした。競争の激しい分野で、独自の着眼点に基づき、樹状細胞機能制御に関与する分子基盤を明らかにしてきており、今後一層の発展が期待される。

第11回(2008年)

峯岸 克行「原発性免疫不全症の病因・病態の解明」

(東京医科歯科大学大学院)

<研究評価の内容とその理由>

峯岸克行氏は、ヒト疾患から免疫制御のメカニズムを解き明かすべく、これまで一貫して先天性免疫不全症の原因と病態の解明に取り組んできた。無ガンマグロブリン血症が免疫グログリンIgH 遺伝子の変異によって生ずることを早くから発見し、その後も、B細胞の分化・活性化に関与するl5, Ig-a, BLNK が免疫不全症の新規原因遺伝子群であることを次々と同定した。これらの解析により、90%以上のヒト無ガンマグロブリン血症の原因遺伝子を明らかにしただけでなく、病態解析を通じてヒトB細胞分化におけるプレB細胞受容体の役割をも明らかにした。さらに最近、原因遺伝子の全く不明であった高IgE症候群の免疫不全症患者の免疫能を詳しく解析し、サイトカインのシグナル伝達の異常を発見し、その原因遺伝子として、Tyk2, STAT3を同定した。特にSTAT3の解析では、優位抑制的な活性を持つ片側アリルの突然変異が疾患を誘導することを明らかにし、連鎖解析による遺伝的解析では原因遺伝子の同定に至らない他の遺伝性疾患の原因解明にも大きな可能性を示した。これらの研究は、ヒトの疾患解析を通して、ヒトの免疫系を細胞、遺伝子のレベルで解析したもので、国際的にも非常に高い評価を受けている。臨床的にも疾患の早期診断と早期治療に大きく貢献する業績であり、今後のヒト免疫と疾病の制御に向けた更なる発展が期待される。

第10回(2007年)

樗木 俊聡「樹状細胞による免疫調節ダイナミズム研究」

(秋田大学大学院医学系研究科)

<研究評価の内容とその理由>

樗木俊聡氏は、IL-15の作用をNK, NKT, TCRγδ細胞について明らかにした後、さらに樹状細胞(DC)機能における役割の検討も行い、IL-15が自然免疫系を構成する多種の細胞群の分化や機能発現に重要な役割を担うという包括的な概念を示した。この中で、CpG刺激によりcDCが産生するIL-15が、cDCのCD40発現を増強し、pDCが発現するCD40Lとの相互作用によりIL-12産生を増強すると共に、pDCからのI型IFNによって感染防御を成立させるという、巧妙なcDC-pDC細胞間相互作用を証明した。また、IL-15が炎症性疾患の原因になることも明らかにしている。さらに、消化管粘膜関連リンパ組織に存在するTipDCが、常在性細菌の刺激によってiNOSを産生し、iNOSがB細胞のTGF-β受容体発現を誘導すると共に、TipDCのAPRILやBAFF産生を増強することによって、B細胞のIgAへのクラススイッチを促進することを示し、このような連続的な作用が腸管における恒常的なIgA産生の機構となっていることも証明した。以上のように、免疫応答の誘導と制御における樹状細胞の多面的な作用に関して、細胞間相互作用と組織特異的な役割に着目して行った樗木氏の一連の独創的な研究は、国内外に大きなインパクトを与え、本分野の研究進展に大きく貢献し、今後も更なる発展が期待される。

第9回(2006年)

天谷 雅行「基礎と臨床にわたる自己免疫疾患研究」

(慶應義塾大学医学部皮膚科)

<研究評価の内容とその理由>

天谷雅行氏は、尋常性天疱瘡抗原がカドヘリンファミリーのデスモグレイン3(Dsg3)であることを同定し、ELISAを用いた尋常性天疱瘡の確定診断法を確立した。続いて、患者血清から抗Dsg3抗体を除去することで水疱が緩解することを示し、自己抗体産生が本疾患の発症機構に密接に関与していることを証明した。さらに、Dsg3ノックアウトマウスは、Dsg3に対してトレランスが成立していない事に着目し、Dsg3ノックアウトマウス脾細胞を正常マウスに移植するという大変ユニークな方法で、尋常性天疱瘡モデルマウス作成に成功した。また、このモデルマウスを用い、Dsg3分子の接着機能上重要な領域に結合するとともに、天疱瘡様の症状を誘導できる抗Dsg3単クローン抗体を作成することに成功した。さらに、この抗体を使用して尋常性天疱瘡の重症度に関する分子機構を解明した。天疱瘡という疾患から免疫系をみるという研究姿勢には臨床研究者としての継続性と一貫性があり、基礎免疫学と臨床免疫学の両方にわたって大きな貢献をしてきた。また今後のさらなる発展が期待できる。

第8回(2005年)

木梨 達雄「インテグリン接着制御による免疫細胞動態調節」

(関西医科大学肝臓研究所)

<研究評価の内容とその理由>

木梨氏は、免疫応答における細胞接着の機能を解析する目的で、インテグリン分子の活性化のシグナル伝達機構を解明する研究を一貫して押し進めてきた。とりわけ、所謂inside-outシグナルとして知られる種々のレセプター刺激によってインテグリンが活性化される機構の解析の中から、Rasの拮抗分子として抑制機能を有すると考えられていたRap1が、インテグリン活性化を誘導する正のシグナル分子であることを明らかにした。免疫系においてRap1が、ケモカインによるインテグリン活性化を担うことも判明し、Rap1が免疫シナプスや細胞移動や細胞極性の制御を広く司ることを明らかにした。更に、Rap1のこれらの機能を担うエフェクター分子としてRAPLの単離に成功した。RAPLの機能解析とその欠損マウスの解析から、RAPLはRap1と会合して、リンパ球の接着・遊走・ホーミングの制御に重要であることを明らかにした。これらの研究成果は、全体としてリンパ球の機能制御に新たな視座を与えているともに、新たなタイプの白血球接着不全症の発見など臨床的にも興味ある展開をしている。   これらは、木梨氏の独自性の高い研究として一貫して発展させて来たものであり、競争の激しいインテグリン研究の中で、世界的に追随を許さない優れた研究となって結実している。インテグリンを介する制御は、免疫細胞動態制御の中心を担い、その破綻としてのアレルギー・自己免疫疾患・慢性炎症などの治療・開発にも今後繋がると考えられる。また一方で、一つの分子の一貫した解析から生命活動全体に関わる制御の研究に発展している経過は若い学会員の大きな励ましであり、今後の広い分野への大きな展開が期待される。

熊ノ郷 淳「免疫セマフォリン分子による免疫応答制御機構の解析」

(大阪大学微生物病研究所)

<研究評価の内容とその理由>

熊ノ郷氏は、それまで神経軸索伸長のガイダンス因子とされてきたセマフォリンファミリーに属するSema4D(CD100)を同定して、そのレセプターがB細胞や抗原提示細胞に発現する抑制性受容体であるCD72であることや、T細胞上のSema4Dを介する刺激がCD72の抑制機能を解除してB細胞や樹状細胞を活性化する分子機構を明らかにした。Sema4D欠損マウスを用いた一連の研究は「免疫セマフォリン」という新しい研究分野を切り開く端緒となっている。さらに樹状細胞で表現されるセマフォリンファミリーとしてSema4Aを単離し、そのレセプターがT細胞上に発現しているヒトA型肝炎ウイルス受容体と相同性を有するTim-2であり、Sema4Aを介したTim-2への刺激がT細胞活性化に重要であることや、生体内ではTh1/Th2の制御に重要であることを明らかにした。また最近では、心臓の初期分化に関与するSema6Dや骨髄ストローマ細胞に発現するSema3Aなどの新しいセマフォリンファミリー分子の免疫系における機能を解析している。このように熊ノ郷氏は、それまで神経生物学の領域で注目されていたセマフォリン分子群の免疫調節機構における重要性を明らかにしたパイオニアであり、その独創性は高く評価され、今後のさらなる発展が大いに期待される。

第7回(2004年)

高井 俊行「イムノグロブリン様レセプターによる免疫制御機構と免疫疾患に関する研究」

(東北大学加齢医学研究所)

<研究評価の内容とその理由>

高井俊行氏は、留学中のRockefeller大学Ravetch博士の下で研究したFcRの機能について解析を続け、FcRを介した正と負の調節がアレルギーや自己免疫疾患の制御を行っていることを明らかにしたが、とりわけ、帰国後独自の道を開き、抑制性FcRであるFcgRIIBがアレルギー・自己免疫疾患の発症を抑制し、末梢トレランスを維持する機能を有することを明らかにした。さらに、高井氏はFcR類似の新規レセプターPIRを発見するとともに、PIRのリガンドが自己MHCであることを同定し、T細胞・NK細胞に次いで第3の自己認識機構を持つことを明らかにし、免疫認識機構に新しい概念を確立した。PIRは活性化型(PIR-A)と抑制型(PIR-B)の存在するペア型レセプターであり、特に抑制型PIR-B欠損マウスは、樹状細胞の成熟不全によりTh2型応答が亢進する新しい形のアレルギーモデルとなること、また、その認識の不全ではGVHDを発症することから、PIRは恒常的に免疫機構を制御していることを明らかにした。FcR, PIRは高井氏が称したようにImmunoglobulin-like receptor(IgLR)と呼ばれるようになっている。以上,高井氏の研究はオリジナリティーの極めて高い研究であり、免疫認識機構に新しい概念を確立したのみならず、免疫疾患の制御に関与している分子であるだけに、疾病克服への貢献も期待される。よって日本免疫学会賞にふさわしい業績であると考えられる。

竹田 潔「遺伝子改変による免疫系シグナルの機能解析」

(九州大学)

<研究評価の内容とその理由>

竹田氏は、主として遺伝子欠損マウスを作製することにより、サイトカインによる免疫系細胞へのシグナル伝達に関わる分子の生理的機能を解明すべく研究を展開し、多くの素晴らしい業績を挙げてきた。同氏が高い評価を得た研究の1つは、STATファミリーのうち、STAT6がIL-4を介したシグナルに不可欠であること、およびSTAT3がIL-6やIL-10による抑制活性に関与することを明らかにした点にある。もう1つの特記すべき研究成果は、IL-1ファミリー分子のシグナル伝達におけるMyD88の機能解析にある。この一連の研究では、MyD88欠損マウスでIL-1やIL-18への反応に不可欠であることを示したのに加え、IL-1受容体と同じTIRドメインをもつTLRファミリーのシグナル伝達の研究に展開させ、国際的に注目を浴びるTLRファミリーの生理機能に関する成果を次々に発表している。また、IL-1ファミリーのシグナルに関連する研究として、IkB複合体でサブユニットであるIKKの遺伝子欠損マウスを作製し、IKKはIL-1等のサイトカイン依存性のNF-kB活性化に必ずしも不可欠ではないことを明確に示し、高く評価された。さらに最近では、竹田氏はTLRの研究を発展させて、STAT3との関連で慢性腸炎の発症機序の解明にも挑戦し、成果を挙げている。これらの竹田氏の研究背景と業績は、まさに次世代の日本の免疫学を担う研究者に授与される免疫学会賞にふさわしいと思われる。

第6回(2003年)

福井 宣規「T細胞の分化・活性化を制御する抗原認識の分子基盤」

(九州大学生体防御医学研究所)

<研究評価の内容とその理由>

福井氏の研究は、「TCRとMHC/ペプチド相互作用によるTリンパ球の選択」と、より最近に行われた「リンパ球特異的細胞骨格制御分子DOCK2の同定とその機能解析」の二つに大きく分けられる。前者の研究においては、遺伝子導入技術を用いて単一のMHC/自己抗原ペプチド複合体をさまざまなレベルでマウス個体に発現させることにより、T細胞分化の運命決定機構を解析できる非常にシンプルな実験系を構築し、同一のリガンドがT細胞の正の選択も負の選択も行い得ることを実験的に明らかにした。独創性の高い研究であり、世界中の免疫学者が持っていた関心事に実験的解答を提供したという点で高く評価される。後者の研究では、前者の研究過程で発見したC. elegans CED5の哺乳類ホモログであるDOCK2の欠損マウスを作製することにより、DOCK2がTCRやケモカイン受容体といったさまざまな受容体の下流で機能し、免疫シナプス形成やリンパ球ホーミング、及びこれらに起因する免疫組織の構築や機能維持において必須のシグナル分子であることを世界に先駆けて明らかにした。この研究は、ケモカインや接着分子の重要性に注目した従来からの「細胞外」接着・シグナルの研究から「細胞内」遊走の研究に免疫学者の目を向けさせたという意味で独創性に満ちた研究であり、今後のさらなる発展が期待される。

第5回(2002年)

生田 宏一「IL-7レセプターによるリンパ球抗原受容体遺伝子の組替え制御機構の研究」

(京都大学ウイルス研究所)

<研究評価の内容とその理由>

生田宏一氏は「IL-7レセプターによるリンパ球抗原受容体遺伝子の組替え制御機構」の研究を一貫して推進している。初期の研究業績として挙げられるTCR hypermutationの欠損の証明や造血幹細胞の精製純化法の確立とγδT細胞の発生時期の解明は極めて質の高い研究成果である。また最近のIL-7によるStat5活性化を介したヒストンアセチル化とTCRγ遺伝子の組み換え誘導機構の関連性を示した研究は、T細胞の生成と分化におけるIL-7の新たな機能的役割を解明した研究として高く評価できる。すなわちIL-7がγ鎖の再構成を誘導するという大胆な仮説を証明し、その分子メカニズムをクロマチンリモデリングの解析で成功させている。サイトカインシグナル伝達とクロマチンの構造変化の研究は、今後、細胞系列決定や機能発現の制御機構を解明していく上で不可欠なアプローチであり、将来の発展も大いに期待される。

第4回(2001年)

吉村 昭彦「サイトカインのシグナル制御機構に関する研究」

(九州大学生体防御医学研究所)

<研究評価の内容とその理由>

吉村昭彦氏はSH2ドメインを有する新規分子CIS(cytokine inducibleSH2-Protein)を発見した。CISはSTAT5によって誘導されサイトカイン受容体に会合することでSTAT5の活性化を抑制するSTAT5の負のフイードバック調節因子であることを世界ではじめて明らかにした。ついでJAK2のキナーゼドメインと直接結合する分子JAB(JAK-binding Protein) を明らかにした。JABは構造的にCISに類似した分子であり.JAKを直接阻害する新しいチロシンキナーゼ阻害因子であることを報告し、数多くの変異型JAB分子を作成し、キナーゼ活性抑制の新しい分子機構を提唱した。以上、吉村昭彦氏はサイトカインシグナルを制御する新たな遺伝子ファミリーの発見とその作用の分子機構の解明、生理機能の解明を行い、今後、サイトカインシグナルとT細胞が関与する疾患に多くの情報を与えてくれるものと期待される。

黒崎 知博「B細胞レセプターを介するシグナル伝達機構の研究」

(関西医科大学肝臓研究所)

<研究評価の内容とその理由>

黒崎知博氏は、B細胞免疫グロブリン受容体(BCR)を介するシグルナル伝達機構を一貫して進めてきた。BCRを介するシグナルの第一段階に複数のチロシンキナーゼ(PTK)群Lyn,Syk,Btkが関与しており、これらPTK群が自らが発見したアダプター分子群BLNKやBCAPを燐酸化することにより、はじめてエフェクター群ホスフオリバーゼC(PLC)-?2,イノシトールリン脂質3キナーゼ(PI3-K)が膜分画にリクルートされ、活性化されることを明らかにした。そしてこの過程がB細胞の分化・増殖に必須であることを明らかにした。これらの研究は、国際評価も非常に高く、今後B細胞シグルナル伝達機構を中心として、B細胞のクローン選択機構や免疫不全症候群の本態の解明が期待される。

第3回(2000年)

松田 文彦「ヒト免疫H鎖可変部領域遺伝子群の構造解析」

(Centre National de Genotypage)

<研究評価の内容とその理由>

松田文彦氏は、長年一貫してヒトの抗体H鎖V領域遺伝子の構造解析を行いその全構造を解明した。この研究成果は、今後のヒト免疫疾患やヒト型抗体を用いた疾患治療法の応用へ向けた基本的なベースを構築したものであり、価値ある研究である。以上の理由で、松田文彦氏の研究は日本免疫学会賞の選考基準を十分に満足するものである。

高浜 洋介/中山 俊憲「Tリンパ球の分化機構の研究」

(徳島大学ゲノム機能研究センター)/(千葉大学大学院医学研究科免疫発生学)

<研究評価の内容とその理由>

高浜洋介氏と中山俊憲氏はともに、T細胞分化の分子機構を長年にわたって解析し多くの業績をあげている。とくに最近では、高浜洋介氏は胸腺における選択と分化に関してMAP Kinaseの意義を明かにしてきている。また、中山俊憲氏は成熟T細胞でのTh1とTh2への分化に関して染色体レベルでの調節機構を明らかにしてきている。両氏の研究は、まだ完成されたとは言えないが、将来の進展を十分に予感させる業績である。以上の理由で、高浜洋介氏と中山俊憲氏の研究は日本免疫学会賞の選考基準を十分に満足するものである。

第2回(1999年)

田賀 哲也「L-6ファミリーサイトカイン群に共有される受容体コンポーネントgp130の機能と信号伝達機構の研究」

(東京医科歯科大学難治疾患研究所)

<研究評価の内容とその理由>

田賀哲也氏は、IL-6ファミリーの共通の受容体であるgp130を発見するとともに、gp130がIL-6ファミリー共通のシグナル伝達性受容体サブニットであることを明らかにした。さらに、gp130からの信号伝達経路を明らかにしたり、胚工学技術をもちいてgp130の生体内における役割を明らかにした。
田賀哲也氏の研究はMajorな研究室で行われた研究であり、その研究内容は絶対評価として全く問題なく立派な研究である。このようにMajorな研究室で行われた研究の、個人レベルでのoriginalityの評価をどのようにするかに関して多くの時間が割かれた。しかし、約3年前に独立した研究室を主宰してから以降のRecent productivityにおいてまざましいものがある。以上の理由で、田賀氏の研究は日本免疫学会賞の選考基準を十分に満足するものである。

三宅 健介「感染免疫における病原体認識機構の解明」

(佐賀医科大学免疫血清学)

<研究評価の内容とその理由>

三宅健介氏は、B細胞の絶対数を制御する分子機構に着目し、新規細胞接着分子や副刺激分子に対するユニークなモノクロ?ナル抗体を数多く作製した。その後、B細胞の細胞死を抑制する機能的なモノクローナル抗体 RP105 を樹立することに成功し、RP105分子のcDNA クローニングをした。その結果、RP105がTollファミリーに属する分子であることを明らかにすると共に、TLR4とともにB細胞のLPSの反応性に重要な役割を果たしていることを見い出した。さらに、RP105の機能発現に関与するRP105会合分子MD-1, TLR4会合分子MD-2を発見し、MD-1やMD-2の構造を決定すると共に、それらがB細胞のLPS応答性に重要な役割をしていることをつきとめた。現在、RP105やTLR4のリガンド(病原体由来分子と内在性分子)の探索を精力的に繰り広げている。
三宅健介氏の研究は、ユニークな発想と地道な努力でなされてきたものであり、高い評価に値する。Tollファミリーに属する分子は、自然免疫系と獲得免疫系の制御に極めて重要な役割を担う分子として、最近急速に注目をあびている。Tollファミリーに属するRP105とその関連分子に関する三宅氏の研究はまだ完成されたとは言えないが、将来の重要性を強く示唆する研究であり、個性が光る研究である。以上の理由で、三宅氏の研究は日本免疫学会賞の選考基準を十分に満足するものである。

第1回(1998年)

長澤 丘司「ケモカインSDF-1/PBSFの生理的病理的役割に関する研究」

(大阪府立母子保健総合医療センター研究所)

<研究評価の内容とその理由>

長澤氏は、B前駆細胞の造血を支持する微小環境因子PBSF/SDF-1を同定した。そして、PBSF-1/SDF-1欠損マウスを作成し、PBSF-1/SDF-1がB細胞増殖に必須のサイトカインであるとともに、造血細胞の骨髄への移住定着に関与するサイトカインであるサイトカインであることを同定し、さらにPBSF-1/SDF-1欠損が心室中隔欠損をもたらすことを発見した。そしてPBSF-1/SDF-1の受容体であるCXCR4のクローニングと欠損マウスを作成して、PBSF-1/SDF-1が消化管血管増生に必須な分子であることを明らかにした。一つのサイトカイン分子とその受容体の概念から、免疫系の分化・形成のみならず、造血細胞の定着、臓器形成、器官形成に新しい概念を提供したことは、日本免疫学会賞の選考基準を十分満足するものである。