日本免疫学会研究奨励賞

JSI Young Investigator Award

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歴代受賞者

第18回(2023年)

河本 新平IgAを介した宿主と腸内細菌叢の相互作用に関する研究」

(大阪大学微生物病研究所 遺伝子生物学分野)

<研究評価の内容とその理由>

河本新平氏はIgAと腸内細菌叢に関して優れた研究を行ってきた。まず、IgA産生制御機構に関して、免疫抑制性受容体PD-1が濾胞性ヘルパーT細胞の数と機能の制御を介して腸内細菌に対する結合性を有したIgAの産生を促進し、腸内細菌叢の恒常性維持に寄与することを明らかにした。そして、Foxp3+ T細胞がIgA産生を介して腸内細菌叢の選択に寄与すること、選択された腸内細菌叢が逆にFoxp3+ T細胞の増殖とIgA産生を誘導するという正の制御ループが働き、腸管の恒常性が維持されていることを解明した。さらに、近年は細胞老化の研究にも取り組み、加齢に伴う腸内細菌叢の乱れの一因が、B細胞の細胞老化誘導によるIgAの量的・質的変化によることを明らかにした。以上の研究は、IgAと腸内細菌叢を標的とした新たな疾患治療法、老化制御法の確立に道を拓くものであり、今後の発展が大いに期待される。

章 白浩B細胞由来のGABAはIL-10陽性マクロファージを誘導することにより抗腫瘍免疫を抑制する」

(理化学研究所 粘膜免疫研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

章白浩氏は、腫瘍免疫における免疫細胞の代謝機構解明に取り組み、優れた研究業績をあげてきた。まず、PD-1欠損下で活性化した免疫細胞が、トリプトファンやチロシンなどのアミノ酸を取り込み消費することで、神経細胞での神経伝達物質の産生が低下、行動異常につながることを示した。さらに、活性化したB細胞がGABAを産生し分泌することや、B細胞由来のGABAが、単球から抗炎症性マクロファージへの分化を促進し、IL-10の産生を増強することで、腫瘍環境下で細胞傷害性T細胞の機能を阻害することを明らかにした。これらの研究成果は、代謝産物による免疫制御の機構を解明し、新たながん免疫治療法の開発につながる重要なものであり、今後の研究の更なる発展が期待できる。

塚崎 雅之感染や自己免疫における組織破壊機構の解明」

(東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄附講座)

<研究評価の内容とその理由>

塚崎雅之氏は、感染や自己免疫による組織破壊のメカニズムについて、特に骨組織を対象にした研究を行い、優れた成果を挙げている。同氏の研究では、免疫細胞とストローマ細胞の相互作用に着目し、頻度の高い感染症である歯周病において口腔細菌叢ー免疫系ー骨代謝系の連関が組織破壊と歯の脱落を促すメカニズムを明らかにし、これが米国における遺伝性歯周病患者への生物学的製剤の臨床試験に繋がる重要な知見となった。また、塚崎氏は破骨細胞の成熟に必須の転写調節因子の同定、骨保護性の骨芽細胞サブセットの同定、さらに骨膜の骨格成長や造血における役割、そして関節リウマチ骨破壊における線維芽細胞の形質変化の分子メカニズムも明らかにしている。これら一連の研究成果は、炎症による組織破壊機構のメカニズム解明に貢献すると同時に、炎症性疾患の病態メカニズムの解明や治療法の開発に繋がると期待される。

森山 彩野感染症に対する生体防御の制御機構」

(国立感染症研究所 治療薬・ワクチン開発研究センター第四室)

<研究評価の内容とその理由>

森山彩野氏は、胚中心B細胞および濾胞ヘルパーT細胞の分野において優れた業績を挙げ、特に、胚中心におけるメモリーT細胞分化機構に関して新たな系路を提唱した。こうした実績をベースとして、さらにSARS-CoV-2の中和抗体の解析を精力的に進め、学問的にも社会的にも極めて重要な発見を相次いで成し遂げた。特に、変異ウイルスに対して高い中和活性を持つ中和抗体の開発に関する業績は特筆すべきものである。一連の研究成果は、感染に対する獲得免疫形成機構の研究進展に大きく貢献するのみならず、今後の感染症対策に大きな示唆を与えるものであり、更なる飛躍的な研究の発展が期待できる。

山岨 大智RNAウイルスの病原性発現機構と宿主抗ウイルス応答の解析」

(東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野、神戸大学医学部医学科 4年)

<研究評価の内容とその理由>

山岨大智氏はHIV-1に対する自然免疫応答の研究の中で、HIV-1のmRNAを特異的に分解する新規RNA分解酵素であるN4BP1のHIV感染における転写後制御の重要性を明らかにした。その後、新型コロナウイルスの研究に従事し、オミクロンを中心としたいくつもの流行株の超早期捕捉とそのウイルス学的性状、特にその免疫逃避能、複製能、病原性の解析を世界に先駆けて発表した。COVID-19で大きく進化したウイルス学と免疫学を融合した新たな研究分野をさらに先にリードする若手研究者として、関連する分野の研究進展に大きく貢献するものであり、今後の更なる研究の発展が期待できる。

第17回(2022年)

金山 剛士恒常性を制御する自然免疫ダイナミズムの解明

(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野)

<研究評価の内容とその理由>

金山剛士氏は、自然免疫を中心とする恒常性機構維持の解明に取り組み、優れた研究業績を挙げてきた。特に、感染時や炎症病態時における組織常在性マクロファージに着目し、好中球など自然免疫細胞の炎症局所への移動や肺の恒常性維持に重要な組織マクロファージの活性化の制御機構を解明した。また、骨髄中での自然免疫細胞の供給メカニズムの研究を進め、ミエロイド系細胞の産生とリンパ球系細胞の維持を調節する新たな機序を見出した。さらに、ストレス造血応答の解明に取り組み、独自の知見を見出している。一連の研究成果は、自然免疫の恒常性維持機構の研究進展に大きく貢献するものであり、今後の更なる研究の発展が期待できる。

河部 剛史新たな自己反応性T細胞の産生・分化機構ならびに免疫学的機能の解明

(東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 免疫学分野)

<研究評価の内容とその理由>

河部剛史氏は、CD4T細胞の恒常性維持機構の解明に取り組み、その中でMemory-phenotype cell(MP細胞)を発見し、MP細胞の機能、産生、分化機構の研究を行ってきた。T細胞恒常性維持増殖は、生理的なリンパ球充足状況でも起こり、この増殖で自己抗原依存的に生成される細胞をMP細胞とし、MP細胞は外来抗原非依存的、IL-12依存的に病原排除に寄与することから、自然免疫型のT細胞として機能することを明らかにした。MP細胞は、サイトカイン産生パターンによりMP1/2/17サブセットに分類されることも見出した。このように、MP細胞という新たな細胞集団を見出した点は画期的であり、他の細胞や様々な疾患病態との関連など、今後研究の発展とさらなる活躍が大いに期待できる。

中濱 泰祐RNA編集による免疫制御機構の解明

(大阪大学大学院医学系研究科 神経遺伝学教室)

<研究評価の内容とその理由>

中濱泰祐氏は、RNAバイオロジーに関する研究を一貫して行い、優れた業績を上げてきた。まず、IL-6により誘導されるAryl hydrocarbon receptorが関節リウマチを重症化させるメカニズムを明らかにした。また、免疫学とRNAバイオロジーを融合させた新しい学問領域を立ち上げることを目指し、RNA編集が免疫恒常性の維持に着目した研究に取り組んでいる。その成果として、RNA編集が大腸炎発症を抑制する働きがあること、また、左巻きのZ型RNAがエカルディ・グティエール症候群の発症の引き金になることなどを明らかにした。これらの一連の研究成果は、RNA編集免疫異常疾患の理解と新たな治療法の開発につながるものであり、今後の更なる研究の発展が期待できる。

半谷 匠死細胞由来分子による腫瘍免疫微小環境制御機構の解析

(東京大学先端科学技術研究センター 炎症疾患制御分野)

<研究評価の内容とその理由>

半谷匠氏は腫瘍細胞が産生し、免疫応答を負に調節するDAMPsの同定取り組まれ、卓越した業績を挙げられた。特に、がん細胞が細胞死を起こした際にDAMPsとしてPGE2が分泌され、M2マクロファージを誘導することで、がん化学療法抵抗性を付与している可能性を示した。また、がん死細胞から分泌されるTCTPがケモカインCXCL1/2を誘導しpolymorphonuclear MDSCsをがん組織に誘導することを見出した。TCTP欠損マウスでは、移植したがんが増殖遅延を示すことから、本分子が抗腫瘍免疫応答において重要な役割を果たすことを証明した。さらに、TCTP遺伝子の増幅が大腸がん患者の予後の不良と相関することも示した。このように本研究は、腫瘍組織における免疫抑制に関するメカニズムの一旦を明らかにするとともに、がん治療における新たな分子標的を提示するものであり、今後の発展が期待できる。

藤本 康介腸管の粘膜免疫機構と微生物叢の解析を基盤とした疾患制御法の開発

(大阪公立大学大学院医学研究科・医学部 メタゲノム解析研究センター ゲノム免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

藤本康介氏は、腸管の抗原特異的なIgAの誘導メカニズムに関する研究ならびに腸内微生物叢に関する研究を行い、優れた研究業績を挙げてきた。特に、標的とする粘膜面へ抗原特異的なIgAを自在に誘導することができる粘膜ワクチンの開発を行い、その粘膜ワクチンが肺炎球菌感染症などの一般的な感染症だけでなく、肥満や糖尿病などの腸内共生病原菌が関連する病態の制御についても有用であることを示した。また、これまで全貌が明らかではなかったヒト腸内ウイルス叢の解析に挑戦し、腸内細菌を宿主とする腸内ファージのゲノム解析手法とそれらのデータベースを確立することに成功した。この解析により、網羅的な理解が難しかった腸内細菌と腸内ファージの宿主寄生体関係をメタゲノム情報から明らかとしただけでなく、ファージが持つ宿主特異的な溶菌酵素を用いた次世代ファージ療法の開発に大きく貢献した。これら一連の研究成果は、粘膜免疫および腸内微生物叢の基礎的解明を基盤とした将来的な医療展開に強く繋がることが期待される。

第16回(2021年)

奥村 龍腸管上皮細胞が発現する Lypd8 による大腸恒常性維持機構の解明

(大阪大学大学院医学系研究科 免疫制御学)

<研究評価の内容とその理由>

奥村龍氏は腸管バリアによる腸管恒常性維持機構に関する研究を行い、優れた業績をあげてきた。特に大腸特異的に発現するGPIアンカー型分子Lypd8が、大腸菌などの鞭毛に結合し運動性を抑制することで大腸組織への侵入を防止し、粘膜バリア機能の維持に大きく寄与することを明らかにした。さらにLypd8は腸管病原性細菌であるCitrobacter rodentiumの上皮接着を防止することも示した。またLypd8欠損マウスは実験的大腸炎に対する感受性が著しく亢進することを見出すとともに、潰瘍性大腸炎患者の大腸上皮細胞においてLypd8の発現が減少していることを示した。このように本研究は、Lypd8による大腸粘膜バリア機構の詳細を解明するに留まらず、難治性疾患である潰瘍性大腸炎の新たな治療法の可能性を拓くものであり、今後の発展が大いに期待される。

高場 啓之胸腺髄質上皮細胞による中枢性免疫寛容の成立機構

(東京大学医学系研究科 免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

高場啓之氏は胸腺内での末梢自己抗原の発現制御に関して優れた研究を行ってきた。まず、胸腺髄質上皮細胞が末梢組織抗原を提示するために必要な分子としてFezf2を同定し、Fezf2はAireと独立して末梢自己抗原を提示する役割を持つことを明らかにした。続いて、Chd4がFezf2とAireの双方に働きかける上流因子として機能し、多様な末梢自己抗原の発現を制御することで中枢性免疫寛容を維持していることを明らかにした。これらの一連の研究成果は、自己免疫疾患の発症機序の解明とその制御法の開発につながるものであり、今後の更なる研究の発展が期待できる。

三上 洋平Omics 解析を用いた炎症性腸疾患病態に関与する腸管粘膜免疫の機能解析

(慶應義塾大学医学部 消化器内科)

<研究評価の内容とその理由>

三上洋平氏は、これまで腸管の慢性炎症性疾患であるクローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の病態解明研究を遂行してきた。特に、腸管内に豊富に存在するTh17細胞を、1細胞遺伝子発現解析(scRNA-seq)法を用いて解析し、腸管Th17細胞が多様な性質を持った多様な細胞集団であることが明らかにした。さらに、Th17細胞の腸炎惹起能にmiRNA-221/222が重要な働きをしていることを示した。この腸管における炎症が全身の免疫系に与える影響について、原発性硬化性胆管炎(PSC)など肝疾患が炎症性腸疾患に合併する臨床的特徴に着想を得て、自律神経の1つである迷走神経求心路を介した肝臓から脳幹の孤束核に投射された刺激が、迷走神経遠心路に乗換え、ムスカリン型アセチルコリン受容体依存的に大腸制御性T(Treg)細胞維持する新規免疫制御機構「肝臓-脳-腸相関」を明らかにした。今後、自律神経による神経免疫連関を標的とした炎症性腸疾患の新規治療戦略の創出に向けて今後の発展が大いに期待される。展が大いに期待される。

三野 享史炎症におけるRNA制御の分子基盤

(京都大学大学院医学研究科 医学専攻 分子生体統御学講座 医化学分野)

<研究評価の内容とその理由>

三野享史氏は炎症や免疫細胞の活性化制御に重要なRNA分解酵素Regnase-1の作用機構の解明において優れた研究業績を挙げてきた。これは異常なmRNAを分解する品質管理機構に類似した機構であり、炎症性サイトカインmRNAの遷延化を防ぐ新たなRNA分解機構の発見であり、免疫におけるRNA制御の分野を開拓した素晴らしい業績である。細胞生物学に加えて、化学と分子生物学を駆使した先端的研究であり、今後も複雑な免疫制御機構を解き明かす独創性の高い研究の進展が大きく期待される。

本村 泰隆IL-4/IL-13 を中心としたアレルギー病態の解明

(大阪大学大学院医学系研究科 生体防御学)

<研究評価の内容とその理由>

本村泰隆氏は、これまで一貫してIL-4/IL-13を中心としたアレルギー病態研究で顕著な業績をあげている。特に、T細胞における当該サイトカイン制御領域および制御機構、好塩基球由来IL-4によるILC2の活性化機構、ILC2の機能制御機構等を、アレルギー病態モデルを用いて明らかにした成果は高く評価されるべきものであり、今後の研究の発展・応用が大いに期待される。

第15回(2020年)

香山 尚子「自然免疫細胞によるT細胞活性制御を介した腸管恒常性維持機構の解明」

(大阪大学 高等共創研究院)

<研究評価の内容とその理由>

香山尚子氏は腸管免疫機構における恒常性維持とその破綻による炎症誘導制御について、腸管に局在するミエロイド系自然免疫細胞が多様な分子メカニズムにより獲得免疫系を制御し腸管恒常性維持に関わっている事を明らかにしてきた。例えば、腸管マクロファージに発現する転写因子BATF2は組織障害性Th17細胞抑制化に必須である事を見出してきた。さらに、CX3CR1high制御性ミエロイド細胞がVCAM-1/ICAM-1を介してT細胞に結合し抑制性サイトカインであるIL-10を介して恒常性維持・炎症抑制に関わっていることを示している。これらの成果は難病に指定されている炎症性腸疾患の新規の予防・治療法開発に向けての基礎的基盤形成に貢献している。最近では間葉系ストローマ細胞による腸管恒常性維持機構についての新しい研究展開を推進しており、今後も腸管バリア機構を介した恒常性維持と破綻による炎症誘導・制御についての統合的理解に向けて、先端的研究を牽引していく事が多いに期待される。

河野 通仁「自己免疫性疾患におけるT細胞細胞内代謝の役割」

(北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)

<研究評価の内容とその理由>

河野通仁氏は自己免疫疾患に重要なTh17細胞と解糖系およびミトコンドリア代謝に関する優れた研究を行なってきた。特にヘルパーT細胞サブセットの中ではTh17が最もグルタミン代謝に依存していること、それはグルタミナーゼ l(Glsl)の発現に依存することを突き止めた。この酵素の阻害剤がSLEモデルを改善すること、SLE患者由来のT細胞でも阻害剤がTh17分化を抑制することを示した。さらにTh17細胞ではピルビン酸からアセチルCoAへ転換させる酵素の発現が低下しており、この酵素のサブユニットをSLE患者由来のT細胞に強制発現するとTh17分化が抑制されることを示した。このようにヘルパーT細胞分化における代謝制御を初めて明らかにし、代謝が自己免疫疾患の治療標的となることを示した点は画期的であり、今後研究の発展と更なる活躍が大いに期待できる。

寺尾 知可史「臨床応用を見据えた免疫疾患・形質のゲノム解析」

(理化学研究所・IMS ゲノム解析応用研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

寺尾千可史氏は、これまで臨床応用を目指した免疫形質のゲノム研究を行い優れた研究業績を挙げてきた。特に、高安動脈炎のおいて、病態に重要な遺伝子としてIL-12Bを同定するとともに、潰瘍性大腸炎との遺伝因子の重複を示し、両疾患の病態の共通基盤を明らかにした。同氏の治験に基づいた高安動脈炎に対する治験計画も現在進められており、今後の発展が大きく期待される。

丸橋 拓海「抑制性免疫補助受容体LAG-3による自己反応性ヘルパーT細胞制御機構の解明」

(東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野)

<研究評価の内容とその理由>

丸橋拓海氏は、 T細胞活性化の抑制性免疫補助受容体であるLAG3および PD-1による抑制機構に関する優れた研究業績を挙げてきた。特に、 LAG3が安定な構造をとるペプチド結合 MHCクラスIIを特異的に認識し、その認識制御が自己応答性T細胞の抑制に関わること、また、グルココルチコイドによるPD-1発現の増強や PD-L1と CD80のシス結合がPD-1抑制機能を調節していることを新規に示した。これら、一連の研究成果は、複雑な免疫制御機構の解明と新規の免疫制御法開発につながるものであり、今後の発展が大きく期待できる。

三上 統久「安定で効率的な制御性T細胞の作製法開発」

(レグセル株式会社)

<研究評価の内容とその理由>

三上統久氏は、高効率かつ機能的な制御性T細胞(Treg)のin vitroにおける作製とその臨床応用に向けた研究を行い、優れた研究業績を挙げてきた。特に、Tregのin vitroでの誘導時にCD28シグナルがTreg特異的DNA脱メチル化を抑制していることを見いだし、CD28刺激を除去して作製したTregが通常のものより優れた免疫抑制活性を持つことを明らかにした。また、スクリーニングによりTregを効率的に誘導する新たな化合物を同定、in vivo投与においてもTregを誘導、抗炎症作用を示すことを見いだした。さらにこの化合物がCDK8/19を阻害することでSTAT5を活性化しFoxP3発現を誘導することを明らかにした。これら一連の研究成果は、自己免疫疾患に対するTreg細胞治療の実現につながる重要なものであり、今後の発展が大いに期待できる。

第14回(2019年)

伊沢 久未「ペア型免疫受容体 CD300 によるマスト細胞のFcεRIシグナル制御機構の解明」

(順天堂大学大学院医学系研究科 アトピー疾患研究センター)

<研究評価の内容とその理由>

伊沢久未氏は、アレルギー・炎症性疾患の病態制御メカニズムの解明に取り組み、数多くの業績をあげている。特に、ペア型免疫受容体LMIR(CD300)ファミリー分子に着目し、数多くの新規炎症・アレルギー制御機構を明らかにしてきた。中でも、LMIR3がセラミドを認識し、マスト細胞のFcεRIシグナルの抑制を介してアレルギー反応を抑制するというImmunityに発表された成果は、抑制性受容体の領域に機能脂質の認識を介した免疫制御という新規概念を導入したものであり、特筆に値する。臨床医の視点を持ちつつ明確な問題意識のもとにぶれない基礎研究を推し進める伊沢氏においては、今後研究の発展と更なる活躍が大いに期待でき、日本免疫学会研究奨励賞にふさわしい人材と評価できる。

伊藤 美菜子「脳梗塞慢性期における制御性T細胞の機能解析」

(慶応義塾大学医学部 微生物学免疫学教室)

<研究評価の内容とその理由>

伊藤美奈子氏は、これまで脳虚血モデルを用いて、脳虚血後の免疫応答が病態に関与することを示し、優れた研究業績を挙げてきた。特に、脳Tregというべき新しいT細胞サブセットが慢性期の脳内炎症制御と組織修復に重要な役割を果たすことを明らかにし、脳Tregが脳梗塞慢性期の新たな治療標的となる可能性を示したことは高く評価され、今後の発展が大きく期待される。

井上 毅「B細胞の分化・活性化を制御する分子群の機能解明」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室)

<研究評価の内容とその理由>

井上毅氏は一貫してB細胞の分化と活性化の分子機構の解明に注力し、B細胞の初期分化から終末分化に至る複雑かつ巧妙なメカニズムについて、独自のB細胞特異的Foxo1遺伝子改変マウスを開発し、同遺伝子が胚中心B細胞の発達・増殖そしてT細胞への抗原提示機能などを通して胚中心形成と維持に重要である事を明らかにしている。さらに、生命体の機能・形態形成に関わるRNA分解酵素複合体に着目し、その構成体の1つであるCNOT3のB細胞特異的欠損マウスも開発し、同複合体がB細胞の分化や抗体のV-DJ遺伝子再構成に関わっている事も明らかにしている。これらの成果を基盤として、まだ未解明な記憶B細胞の分化・発達の分子メカニズムの解明も進めており、井上氏の研究はB細胞免疫生物学を先導するだけではなく、その成果は今後のワクチン開発などにも応用が可能であり、これから益々の発展が大いに期待される。

杉浦 大祐「免疫抑制補助受容体によるT細胞活性化制御機構の解明」

(徳島大学 先端酵素学研究所 免疫制御学分野)

<研究評価の内容とその理由>

杉浦大祐氏は、これまでT細胞活性化に対する抑制性受容体であるLAG-3やPD-1によるT細胞活性化制御機構に関する優れた研究業績を挙げてきた。特に、CD80がPD-L1と抗原提示細胞上で隣同士にシス結合していること、シス結合したPD-L1はPD-1と結合できないこと、CD80によるPD-L1の機能制限が起こらないノックインマウスではT細胞応答が顕著に障害されることを示した。これら一連の研究成果はT細胞応答メカニズムの本質に迫る重要なものであり、今後の発展が大きく期待される。

田之上 大「宿主免疫系に影響を与える腸内常在細菌に関する研究」

(慶応義塾大学医学部 微生物学免疫学教室)

<研究評価の内容とその理由>

田之上大氏は、無菌マウスに特定の腸内細菌を定着させるノトバイオート技術を駆使し、腸内細菌と免疫系の発達の関わりを明らかにしてきた。なかでも特筆すべきは、がんや感染症防御に関わるIFN-gを産生するCD8陽性T細胞を誘導する11細菌株を単離・同定したことである。田之上氏は、さらに単離した11細菌株をマウスに経口投与すると、皮下腫瘍モデルにおいて免疫チェックポイント阻害療法の効果を高め、CD8陽性T細胞依存的に腫瘍の増大を抑制することを見出した。これらの研究成果は、腸内細菌による獲得免疫系の活性化機構を明らかにしたばかりでなく、腸内細菌によるがん治療法の新規開発への応用につながるものであり、今後の研究のさらなる発展が大いに期待される。

第13回(2018年)

姜 秀辰「腸管免疫ホメオスタシス維持における神経・免疫・代謝連関の解明」

(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫機能統御学)

<研究評価の内容とその理由>

姜秀辰氏は、これまで神経ガイダンス因子として知られていたセマフォリンの免疫系、とりわけマクロファージにおける機能解析において優れた研究業績を挙げてきた。特に、Sema7Aが抑制性マクロファージからのIL-10産生を誘導すること、Sema6DがmTOR依存性に誘導され、脂質代謝をコントロールすることにより抑制性マクロファージの分化を制御することを見出した。これら一連の研究成果は、神経ガイダンス因子として知られているセマフォリンが、免疫、代謝を結ぶ鍵分子であることを示す重要なものであり、今後の発展が大きく期待される。

金谷 高史「腸管免疫を発動するM細胞の分化機構に関する研究」

(理化学研究所・IMS 粘膜システム研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

金谷高史氏は、これまで腸管の抗原取り込みに重要なM細胞の分化や機能に関する優れた研究業績をあげてきた。特に、RANKLが転写因子Spi-Bを介してM細胞の分化を誘導すること、Spi-B欠損マウスではサルモネラのパイエル版への取り込みと同菌に対する免疫応答が著減することを示した。また、NF-kBの古典経路がM細胞分化に必須であること、非古典経路はp52/RelBを介してSpibの発現を誘導することを示した。さらにM細胞の抗原取り込み機能を維持するためには、局所樹状細胞の産生するIL-22結合タンパク質が重要なことも明らかにした。これらの成果は、Nature Immunology誌やJournal of Experimental Medicine誌に掲載されており、今後の活躍が大いに期待できる。

寺島 明日香「全身炎症疾患モデルマウスにおける骨髄環境の変容解明」

(東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄附講座)

<研究評価の内容とその理由>

寺島明日香氏は、骨髄微小環境の変化と免疫細胞分化に関する研究で卓越した研究業績をあげている。特に、敗血症のような全身性炎症がおきると、リンパ球減少が誘導されるメカニズムとして骨髄環境の恒常性が著しく破綻していることが原因であることを明らかにした研究が特筆に値する。本知見は敗血症で問題視される二次感染の原因の一端とも考えられ、臨床的にも意義深い。これらの成果はImmunityに報告されており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

細川 裕之「転写因子によるT細胞分化および機能制御機構の解明」

(カリフォルニア工科大学 生物学部門、東海大学 医学部 基礎医学系 生体防御学)

<研究評価の内容とその理由>

細川裕之氏は、転写因子による免疫細胞の運命決定メカニズムについて研究を行ってきた。これまでに、転写因子GATA3が複数の複合体を同時に形成し、様々な遺伝子の発現を正にも負にも制御することで、Th2細胞の運命決定を行うことを明らかにした。最近は、胸腺でのT細胞初期分化において、ゲノム上のコファクターの結合部位をステージ特異的な転写因子が再配置することで細胞の運命決定を司っていることを見出した。細川氏の明らかにした転写因子による新しい遺伝子発現制御機構は、免疫学のみならず細胞生物学の中心的課題に大きく貢献するものであり、今後の発展が大いに期待できる。

王 静「炎症応答における好中球の制御および動態の研究」

(Shanghai Institute of Immunology, Shanghai JiaoTong University School of Medicine)

<研究評価の内容とその理由>

王静氏は、これまで疾患モデルマウス等を用いて生体内で起こる炎症反応の解析を行い、数多くの研究業績をあげてきた。特に、単球やマクロファージが炎症部位にどのようにリクルートされ、それが炎症応答や組織修復にどのように関与しているかについて顕著な業績をあげてきた。最近は、好中球の炎症部位への集積とその後の運命に関して今までに考えられていない新たなメカニズムを発見した。これらの研究成果は、Science誌やCell誌等の一流誌に筆頭著者として発表されており、今後大きな発展が期待できる。

第12回(2017年)

市山 健司「IL-17産生ヘルパーT細胞の分化を制御する新規因子の同定およびその機能解明」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 実験免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

市山健司氏は、これまでIL-17産生ヘルパーT細胞(Th17)の分化制御機構に焦点を当て研究を遂行し、優れた研究業績を挙げている。特にTGF-βによるTh17の分化誘導においてJNK-cJun経路を介した転写因子Eomesの発現抑制が重要であること、さらにJNK阻害剤をマウスに投与することでTh17が減少し、実験的自己免疫性脳脊髄炎の病態が改善されることを明らかにした。また、エピジェネティック制御機構の一つであるmicroRNAに注目し、Th17特異的に発現するmicroRNAとしてmiR-183クラスターを同定した。そしてmiR-183クラスターが転写因子Foxo1の発現抑制を介してTh17分化を促進することを見出した。これら一連の研究成果はTh17分化の新たな制御機構を提示するだけでなく、自己免疫疾患に対する新規治療法開発への応用に繋がる重要なものであり、今後の発展が大いに期待できる。

笹井 美和「細胞内小胞輸送を介した病原体排除機構に関する研究」

(大阪大学微生物病研究所 感染病態学分野)

<研究評価の内容とその理由>

笹井美和氏は、これまで自然免疫系のシグナル伝達機構や病原体感染に対する生体防御機構の活性化について数多くの研究業績をあげてきた。特に、TLRのアダプター分子を解明してきた業績やTLRの細胞内局在によって自然免疫応答が制御されるという新しい概念を提唱した業績がある。さらに、最近は、細胞内病原体感染に対する感染防御機構に細胞内小胞輸送が非常に重要な役割を担っていることを解明した。これらの研究成果は、Science誌やNature Immunology誌等の一流誌に筆頭著者として発表されており、今後大きな発展が期待できる。

佐藤 尚子「3型自然リンパ球の発見および病原性/共生細菌とILCサブセットの相互機能解析」

(理化学研究所・IMS 粘膜システム研究グループ)

<研究評価の内容とその理由>

佐藤尚子氏は、最近その存在が新規免疫細胞群として大きく注目される自然リンパ球(Innate lymphoid cells:ILCs)研究の世界的先駆けとして、ILC3を同定、報告した。佐藤氏はその後もILC3の機能や分化の研究を継続し複数の論文報告を行っており、その業績が評価されスタッフ研究員(Assistant Professor相当)のポジションを得ている。その後、帰国と共に理化学研究所定年制研究員に採用され、胃に存在する胃ILC2が胃の細菌叢と深く関連することを新たに発見している。このように佐藤氏は一貫してILCsの研究を展開しており、これらの研究は免疫学における新たな概念に繋がる優れた成果であり、今後の発展が大いに期待される。

鍋倉 宰「記憶ナチュラルキラー細胞分化の分子機構の解析」

(筑波大学 生命領域学際研究センター)

<研究評価の内容とその理由>

鍋倉 宰氏は、NK細胞が記憶細胞に分化する分子機構について卓越した研究成果を挙げた。まず、ウィルス感染後に増殖し記憶NK細胞となる際にIL-33が必要であること、活性化受容体DNAM-1がウィルス特異的NK細胞の増殖と記憶NK細胞への分化を促進すること、また、同種MHC反応性の活性化受容体Ly49Dを発現するNK細胞がアロ抗原刺激で記憶NK細胞に分化することを発見した。さらに、自己MHCを認識するLy49Dを発現するNK細胞が優先的に記憶NK細胞に分化することを発見し、自己MHC認識受容体の意義を初めて明らかにした。これらの一連の優れた研究成果は、記憶NK細胞を基盤とした新規のワクチン開発など、ウィルス感染に対する治療等への応用が大いに期待される。

平安 恒幸「多様化レセプター群LILRおよびKIRと病原体との相互作用に関する研究」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 免疫化学研究室)

<研究評価の内容とその理由>

平安恒幸氏は、免疫レセプターLILR及びKIRに着目し、これらのレセプターと病原微生物との相互作用に関する研究を進めてきた。その結果、これまで機能が同定されていなかったLILRA2, LILRA5が、病原微生物が生体に侵入するときのレセプターとして働いていることを見出してきた。又、最近では、マラリア原虫と抑制レセプターとの相互作用が、マラリア感染に重要な役割を担っていることを見出してきている。これらの研究はNat. Microbiologyなどの一流誌に発表されており、今後の発展がおおいに期待できる。

第11回(2016年)

新 幸二「腸管T細胞の分化・活性化を促進する腸内細菌の同定」

(慶応義塾大学医学部 微生物学免疫学教室)

<研究評価の内容とその理由>

新幸二氏は、特定の腸内細菌を定着させるノトバイオート技術により、特定の腸内細菌がT細胞分化を誘導することを発見した。まず、腸内細菌の一種セグメント細菌がマウス小腸でTh17細胞を誘導することを発見した。さらに、Th17細胞の分化誘導メカニズムとして、腸内細菌が腸管上皮細胞に強く接着することにより血清アミロイドAの誘導を介し、樹状細胞を活性化させることが重要であることを明らかにした。続いて、マウス大腸の制御性T細胞の誘導を司る腸内細菌としてクロストリジウム細菌を同定した。さらに、ヒトの腸内細菌の中から大腸の制御性T細胞の誘導を司るクロストリジウム細菌群も同定した。これらの一連の研究成果は、腸内細菌が獲得免疫系の活性化に必須であることを証明した画期的な成果であり、今後腸内細菌の乱れが関与する疾患への応用研究が大いに期待される。

飯島 則文「性感染症を引き起こすウイルスに対する末梢組織生体防御機構の解明」

(医薬基盤・健康・栄養研究所)

<研究評価の内容とその理由>

飯島則文氏は、これまでにウイルス感染に対する粘膜面における免疫反応の研究に取り組んできており、多くの重要な知見を報告してきた。例えばヘルペスウイルス感染後に粘膜免疫組織中にメモリーCD4T細胞を中心とするクラスターが形成され抗ウイルス機能を維持していることを明らかにした。さらに最近ヘルペスウイルスの神経組織感染に対して特異的抗体の到達にメモリーCD4T細胞が必要であることを解明し、粘膜-神経組織間の生体防御ネットワークの重要性を示した。これらの一連の研究は粘膜免疫の基礎的な理解に貢献するだけでなく、ワクチン開発などの応用にも結びつくものであり、今後大きな発展が期待できる。

 

佐藤尚子氏は、最近その存在が新規免疫細胞群として大きく注目される自然リンパ球(Innate lymphoid cells:ILCs)研究の世界的先駆けとして、ILC3を同定、報告した。佐藤氏はその後もILC3の機能や分化の研究を継続し複数の論文報告を行っており、その業績が評価されスタッフ研究員(Assistant Professor相当)のポジションを得ている。その後、帰国と共に理化学研究所定年制研究員に採用され、胃に存在する胃ILC2が胃の細菌叢と深く関連することを新たに発見している。このように佐藤氏は一貫してILCsの研究を展開しており、これらの研究は免疫学における新たな概念に繋がる優れた成果であり、今後の発展が大いに期待される。

遠藤 裕介「脂肪酸代謝経路のヘルパーT細胞分化における役割と肥満病態における重要性の解明」

(千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学教室)

<研究評価の内容とその理由>

遠藤裕介氏は、これまでにアレルギー性気道炎症を誘導する病原性記憶Th2細胞の発見、IL-33による病原性記憶Th2細胞の分化誘導機構の解明など、記憶Th細胞中の病原性を有する集団によるアレルギー疾患の病態慢性化機構に関する一連の研究をリードしてきた。さらに、T細胞分化における細胞内代謝の役割の解明などの新しい研究領域に果敢に挑戦し、肥満環境において脂肪酸代謝酵素ACC1が制御するTh17細胞分化機構を明らかにした。これらの研究は、ヘルパーT細胞による炎症病態の制御機構の研究における新しい概念にいたる優れた成果であり、今後の発展が大いに期待できる。

岡本 一男「IL-17産生T細胞の分化と自己免疫疾患・骨疾患における機能の解明」

(東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄附講座)

<研究評価の内容とその理由>

岡本一男氏は、Th17細胞及びγδT細胞等のIL-17産生細胞の分化・機能制御に関する研究に精力的に取り組み、優れた研究成果をあげてきた。特にTh17細胞の分化過程において転写制御因子IκBζがIL-17発現に重要であることや、自己免疫性関節炎におけるTh17細胞の骨破壊誘導機序、多発性硬化症におけるTh17細胞の中枢神経系炎症の誘導機序を、疾患モデルマウスを用いて明らかにしてきた。また骨折治癒において、IL-17産生性γδT細胞が損傷部位の間葉系前駆細胞に作用して骨再生を促すことを明らかにし、炎症と組織再生を結ぶγδT細胞の新たな生理機能を見出すことに成功している。現在、自己免疫疾患に限らない多様な疾患における免疫と骨の相互作用に関して研究を進めており、今後の研究の発展がおおいに期待できる。

茂呂 和世「ナチュラルヘルパー細胞の発見と機能解析」

(理化学研究所・IMS 自然免疫システム研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

茂呂和世氏は、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、LTi細胞とは異なる新規リンパ球を発見し、ナチュラルヘルパー(NH)細胞と命名し、その表現型、遺伝子発現、サイトカイン反応性、サイトカイン産生能、シグナル伝達経路、個体レベルでの恒常性維持と寄生虫感染における役割を明らかにした。この発見は国際的に非常に注目され、自然リンパ球(Innate lymphoid cell; ILC)という新しい分野の確立に大きな貢献をした。これらの研究はNature, Nat. Immunol., などの一流誌に発表されており、今後の発展が大いに期待できる。

第10回(2015年)

後藤 義幸「腸内細菌および3型自然リンパ球による腸管恒常性制御機構の解明」

(東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター)

<研究評価の内容とその理由>

後藤義幸氏は、これまでに腸内細菌と3型自然リンパ球(ILC3)による腸管恒常性の制御機構について研究を遂行し、この分野で優れた成績を収めている。まず、ILC3上に発現したMHCII分子がセグメント細菌非依存的な腸管Th17細胞の分化を負に制御していることを明らかにした。またILC3から産生されるIL-22は、腸管上皮細胞の糖鎖修飾(α1,2-フコース付加)を制御し、腸内細菌の恒常性維持とともに病原性細菌の感染防御に寄与することを見出している。この発見は、腸内細菌に対する「共生」と病原性細菌に対する「排除」を司る上皮糖鎖修飾制御を介した新たな免疫システムの存在を提唱するものであり、腸管免疫システムを理解する上で重要な成果である。現在は免疫細胞による腸管上皮細胞のα1,2-フコース発現制御の詳細とともに腸疾患に対する応用研究を進めており、将来の研究の発展が大いに期待できる。

小松 紀子「Foxp3+T細胞の分化可塑性と自己免疫性関節炎における重要性の解明」

(東京大学大学院医学系研究科 免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

小松紀子氏は、これまで精力的にFoxp3+制御性T細胞の分化可塑性に関する研究に取り組み、優れた業績を上げてきた。制御性T細胞がFoxp3の発現を失うと抑制機能をなくすだけでなく、自己反応性のエフェクターT細胞に分化することを実験的に証明している。Foxp3+T細胞には安定なCD25hiサブセットと不安定なCD25loサブセットが存在し、CD25loサブセットのみが分化可塑性をもつこと、さらに、CD25loFoxp3+T細胞がTh17細胞に分化し、関節炎の病態の増悪化をもたらすことをあきらにした。これらの成果は、Foxp3+T細胞の分化可塑性と病態との関連をあきらにしたもので、今後の発展が大いに期待できる。

高田 健介「胸腺プロテアソームを介したCD8+T細胞の正の選択に関する研究」

(徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター)

<研究評価の内容とその理由>

高田健介氏は、胸腺におけるT細胞の正の選択過程の免疫学的意義の解明に取り組んで来た。胸腺におけるCD8+T細胞の正の選択過程において、胸腺皮質上皮細胞でのみ発現するβ5tサブユニットを含んだ胸腺プロテアソームでつくり出されたペプチドが必須である事が知られていたが、その意義は不明であった。高田氏は胸腺プロテアソーム存在下で生成するペプチドの特性を明らかにし、さらに胸腺プロテアソーム欠損下で選択されたT細胞は感染応答などの機能に異常が認められることから、皮質上皮細胞固有のペプチドに基づいた正の選択は、T細胞の抗原特異性だけでなく、抗原応答性をも規定することを明らかにした。これらは胸腺における正の選択の意義の一端を解明した優れた成果であり、免疫学の中心的課題に切り込む研究として、今後の研究の発展が大いに期待できる。

平原 潔「CD4 T細胞を介した免疫恒常性制御機構の解明」

(千葉大学大学院医学研究院免疫発生学教室(H3))

<研究評価の内容とその理由>

平原潔氏は、アレルギー性気道炎症や自己免疫疾患などの免疫関連疾患におけるCD4陽性T細胞の役割についての研究を行ってきた。特に最近は、サイトカインシグナルの下流にあるSTATファミリー分子群がCD4陽性T細胞において非対称的機能を有すること、この分子群の機能的均衡の破綻が免疫能低下による難治性慢性真菌症発症に深く関与することを見出だしており、国際的にも高く評価されている。これらの平原氏の業績は、免疫恒常性が破綻した各種免疫関連疾患の病態理解に大きく貢献するものであり、今後の発展が大いに期待できる。

第9回(2014年)

尾松 芳樹「造血幹細胞・前駆細胞と免疫細胞を維持するニッチの機能と形成機構の解析」

(京都大学再生医科学研究所 生体システム制御学分野)

<研究評価の内容とその理由>

尾松博士は2010年に、骨髄で造 血幹細胞のホーミングと維持及び免疫担当細胞の産生に必須であるケモカイン CXCL12を高発現する細網細胞(CAR細胞)が脂肪o骨芽細胞前駆細胞であり、造血 幹細胞o前駆細胞のニッチとして必須の役割を担うことを証明した (Omatsu Y., et al., Immunity 2010)。これに続いて2014年に、CAR細胞とその 造血幹細胞o前駆細胞ニッチとしての機能の形成と維持に必須の転写因子として Foxclを世界に先駆けて報告した(Omatsu Y., et al., Nature 2014)。これらの成果は、長年不明であった骨髄の免疫担当細胞を産生するニッチの細胞系列を特定しその発生の分子機構を明らかにしたもので画期的な成果である。これらの研究は今後も免疫発生学 の発展に貢献することが大いに期待できることから日本免疫学会研究奨励賞に相応しいと判断された。

倉島 洋介「体表面バリアにおけるマスト細胞の機能調節因子の探索と疾患治療に向けた取り組み」

(東京大学医科学研究所 炎症免疫学分野)

<研究評価の内容とその理由>

倉島洋介氏は炎症性腸疾患における粘膜型マスト細胞の活性化因子の探索を試み、その活性化には細胞外アデノシン3リン酸(ATP)ならびにATP受容体の一つであるP2X7受容体が重要であることを明らかにし、その阻害活性を有するモノクローナル抗体の作製にも成功している。さらに、マスト細胞の組織特異性の獲得機序解明に関連して、組織内の線維芽細胞によるマスト細胞の制御機構が存在することを証明している。線維芽細胞がマスト細胞上のP2X7受容体を皮膚組織特異的に低下させ、マスト細胞の過剰な活性化を抑制していることを新たに示したことは、今後の皮膚での新規炎症予防・治療戦略に結びつくものであり、高く評価できる。

佐藤 荘「疾患特異的M2マクロファージの生体内での役割と分化機構の解明」

(大阪大学微生物病研究所 自然免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

佐藤荘氏は、M2マクロファージの分化と生理的役割の解明をテーマとして研究を遂行し、この分野で優れた業績を挙げている。アレルギー応答に重要なM2マクロファージの分化にはJmjd3が必須であることを明らかにした。一方で、脂肪組織のような抹消組織のホメオスタシスを担う組織常在型M2マクロファージの分化にはTrib1が重要であることも解明した。現在これらの結果をもとにして、疾患特異的M2マクロファージの概念を提唱し、疾患に対応する各々のM2マクロファージの解析を精力的に展開しており、将来の研究の発展と臨床応用が大いに期待される。

西村 智「肥満脂肪組織における免疫細胞賦活化機構:生体分子イメージングによる解析」

(自治医科大学分子病態治療研究センター 分子病態研究部)

<研究評価の内容とその理由>

西村智氏は、生活習慣病において、生体内代謝臓器でおきる様様な免疫・炎症細胞の相互作用について、独自に開発した二光子顕微鏡を用いてアプローチしてきている。脂肪組織において肥満すると、CD8陽性T細胞の活性化、IL-10産生B細胞の機能減弱が生じることを明らかにし、脂肪組織恒常性維持とその破綻メカニズムに新しい視点を与えてきた。又、これらの知見はヒトにも適用可能であることをも示してきている。最近では、新たな非線形顕微鏡技術によるミクロレベルから、臨床マススケール解析によるマクロレベルまで組み合わせた研究を予定しており、今後の研究の発展がおおいに期待できる。

八木 良二「転写因子GATA3によるヘルパーT細胞および自然リンパ球の分化制御機構の研究」

(千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学教室(H3))

<研究評価の内容とその理由>

八木良二氏は、これまでヘルパーT細胞の分化制御メカニズムに関する研究に携わり、優れた研究成果をあげてきた。特にTh2細胞のマスター転写因子であるGATA3がTh2細胞分化を誘導するだけでなく、Th1細胞分化を積極的に抑制していることや自然リンパ球の分化制御にGATA3が必須な因子であることを証明した。転写因子によるヘルパーT細胞の分化制御メカニズム解析に関する研究を精力的に行っており、今後の研究の発展が大いに期待される。

第8回(2013年)

米谷 耕平「B細胞抗体産生を司る分子群の機能解明」

 (理化学研究所・IMS-RCAI 分化制御研究グループ)

<研究評価の内容とその理由>

米谷耕平氏はこれまで、末梢のB細胞の一次免疫反応・二次免疫記憶反応を制御するメカニズム研究に携わり、CIN85がB細胞のシグナル活性を制御して、その結果一次免疫反応に必須の役割を担っていることを明らかにした。又、二次免疫記憶反応の特徴である、迅速反応性に関して、長年の議論に決着をつけるデータを得、更に、新しい分子基盤提出に至った研究成果など、優れた業績を挙げてきている。現在これらの研究を基に、免疫記憶維持のメカニズム研究を精力的に展開しており、将来の研究の発展が期待される。

関谷 高史「核内オーファン受容体Nr4aによるCD4+T細胞分化制御の研究」

(慶応義塾大学医学部 微生物学免疫学教室)

<研究評価の内容とその理由>

関谷高史氏は、抑制性T細胞Tregを産み出す転写因子の検索を行い、Nr4aファミリー遺伝子の強制発現でナイーブT細胞にFoxp3が誘導されることを発見した。さらにNr4a 1,2,3の3重ノック欠損マウスを作製しTregの産生にNr4aが必須の役割を果たすことを示した。またNr4a遺伝子を骨髄細胞に導入することで、強力にNr4aを活性化するとT細胞の細胞死が起こり、適切に活性化されるとTregになることを証明した。すなわちNr4aが胸腺におけるCD4T細胞のセレクションに必須な役割を果たすことを示した。このように関谷氏はTregの発生分化を精力的に研究しており、今後の研究の発展がおおいに期待できる。

廣田 圭司「炎症性Tヘルパー細胞の機能と制御機構の解明」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 実験免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

廣田圭司氏は、これまで一貫してIL-17産生炎症性Th17細胞の分化因子及び機能制御機構に関する研究を行い、優れた研究業績を挙げている。自己免疫疾患の動物モデルを用いて、Th17細胞の分化モデル、遊走因子、機能制御に関わる転写因子を明らかにしてきた。さらに、IL-17細胞系譜リポーターマウスを作製することによって、さまざまな免疫応答時の生体内でのTh17細胞の可塑性とその生物学的意義を明らかにした。現在、Th17細胞のエフェクター機能を制御する分子および可塑性を誘導する分子機構のさらなる理解に向けた研究を展開しており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

三宅 靖延「抗原提示細胞による死細胞と結核菌に対する免疫応答に関する研究」

(九州大学生体防御医学研究所 分子免疫学分野)

<研究評価の内容とその理由>

三宅靖延氏は、マクロファージ・樹状細胞による自己・非自己の認識機構の研究に従事し優れた業績を挙げている。生体内で死細胞を貪食して免疫寛容を誘導するマクロファージの亜集団を同定し、その集団を制御することで自己免疫疾患の抑制を可能にした。また、結核菌を認識する受容体の研究を進め、新規C型レクチン受容体MCLを見いだし、宿主の獲得免疫系の活性化を誘導して、結核菌からの生体防御におけるMCLの役割を解明した。現在は、同定したMCLの機能解析とともに、これを標的にした低毒性アジュバンドの開発をも精力的に進めており、今後の研究の発展がおおいに期待できる。

柳井 秀元「核酸認識・炎症性疾患におけるHMGB1の機能解析」

(東京大学生産技術研究所 炎症・免疫制御学社会連携研究部門)

<研究評価の内容とその理由>

柳井秀元氏はこれまで、核酸認識受容体における核酸認識機構についての解析に従事し、優れた研究成果を挙げてきた。特に、High-mobility group box (HMGB)-1タンパク質が核酸認識において、重要な役割を果たしていることを世界で初めて明らかにしている。HMGB1が核酸に結合することはこれまで知られていたが、核酸認識全般において、重要な役割を果たしていることを示した事は、この分野に大きな展開をもたらしたといえる。さらに、HMGBタンパク質を標的としたオリゴ核酸が、自己免疫疾患モデルマウスにおける病態を軽減させることができることも示したことは、核酸医薬の開発に資する成果として高く評価できる。

第7回(2012年)

浅野 謙一「マクロファージによる死細胞貪食の免疫学的意義、およびその臨床応用」

(東京薬科大学生命科学部 免疫制御学研究室)

<研究評価の内容とその理由>

浅野謙一氏はこれまで、食細胞による死細胞貪食の分子メカニズムとその免疫学的意義の研究に従事し、優れた研究成果を挙げてきた。大学院在学中は生体内での死細胞除去の異常により自己抗体産生が誘導されることを見いだし、死細胞貪食が自己免疫寛容の維持に関与していることを示した。さらに脾臓の辺縁帯やリンパ節洞に局在するCD169陽性マクロファージが、死細胞貪食に伴う免疫制御に重要な役割を担っていることを明らかにした。最近では、このマクロファージサブセットが、がん死細胞が惹起するがん抗原特異的な免疫の活性化に深く関与していることを世界で初めて明らかにしている。この発見は、より効果的ながん免疫療法の開発につながる成果であり、今後、基礎および臨床の両面でのさらなる研究成果の創出が期待できる。

伊勢 渉「抗体産生応答を制御する転写因子の機能解析」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室)

<研究評価の内容とその理由>

伊勢渉氏は、抗体産生応答を制御する転写因子の機能解析に取り組み、極めて優れた研究成果をあげてきた。特にAP-1ファミリー転写因子BATFが濾胞性ヘルパーT細胞の分化に必須であること、さらにBATFがB細胞のクラススイッチにも必須であることを見出し、この転写因子の生体内抗体産生応答における重要性を初めて明らかにした。現在、これらの研究を発展的に継続すると同時に、体液性記憶免疫応答の発生・維持・活性化の転写因子による制御について精力的に研究を展開しており、今後の研究の発展がおおいに期待できる。

齊藤 達哉「パターン認識受容体を介した自然免疫応答における活性酸素種の役割に関する解析」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

齊藤達哉氏は、蛋白質分解機構による免疫制御に関する研究に長く携わっており、とりわけ近年は、異物刺激が惹起する危険シグナルである活性酸素種と蛋白質分解機構との連関がパターン認識受容体の情報伝達制御において果たす役割に着目した研究を行っている。活性酸素種を介したTLR4依存的な炎症応答をオートファジーが抑制するメカニズムの解明や、好中球エラスターゼを介したTLR7/8依存的な感染防御応答を活性酸素種が誘導するメカニズムの解明は、活性酸素種と蛋白質分解機構との連関が自然免疫に深く関わることを示すものであり、今後の研究の発展が大いに期待できる。

七田 崇「脳梗塞後炎症における免疫応答の解明」

(慶応義塾大学医学部 微生物学免疫学教室)

<研究評価の内容とその理由>

七田崇氏は、脳卒中医療に関わった経験から脳内免疫機構に興味を持ち、大学院進学後に、脳内炎症の機能研究を開始した。七田氏は脳虚血後の急性炎症に、IL-17を生産する 型T細胞が関わることを見いだした。さらに、このような急性炎症とそれに引き続く神経障害が、T細胞浸潤の阻害剤であるFTY720で抑制することが可能であることを示し、新たな治療法の可能性を示した点で高く評価されている。さらに、脳虚血時に浸潤するマクロファージの活性化が壊死細胞から放出されるペルオキシレドキシンによって誘導されることを見いだし、ペルオキシレドキシンが新規の内因性炎症誘起因子であることを証明した。七田氏の進める研究は、炎症性疾患の発症機構の理解や新規治療法の開発に資するものであり、今後の発展が大いに期待される。

鈴木 一博「免疫セマフォリン分子の機能解析と多光子励起顕微鏡を用いた生体イメージングによる免疫応答の可視化」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 免疫応答ダイナミクス研究室)

<研究評価の内容とその理由>

鈴木一博氏は、これまで免疫系におけるセマフォリン分子の研究に携わり、セマフォリン分子による炎症反応の誘導機構を明らかにした。さらに多光子励起顕微鏡を用いた免疫応答のイメージングにも取り組み、B細胞が抗原を獲得する瞬間を捉えるなど、優れた業績を挙げている。鈴木氏は現在、神経系と免疫系で機能するセマフォリン分子の研究から芽生えた神経系と免疫系の関連性への興味に基づいて、イメージング技術を活用して神経系による免疫応答制御の分子基盤の解明を推し進めており、今後の研究の発展が期待される。

第6回(2011年)

伊川 友活「T細胞/B細胞系列への運命決定における転写因子による制御機構の解明」

(理化学研究所・RCAI免疫発生研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

伊川友活氏は、大学院時代から現在まで一貫して、T細胞系列への運命決定における転写因子による制御機構を研究してきている。大学院時代には、胸腺における系列決定過程を解析できるクローナル培養法を開発し、T/NK共通の前駆細胞からNK細胞系列への決定にId2が必須であることを明らかした。また、米国留学中はE2Aの欠損によりB細胞系列以外への分化能をもった多能性前駆細胞を用いて、T細胞初期分化にはNotchシグナルが重要であること明らかにした。さらに最近は、Notchリガンドと増殖因子を用いた造血幹細胞の培養系を用いて、転写因子BCL11BがT細胞系列への分化決定に必須であることを明らかにしており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

澤 新一郎「マウス腸管におけるRORγt自然リンパ球の機能解析」

(国立成育医療研究センター内科系診療部 免疫科)

<研究評価の内容とその理由>

澤新一郎氏は、腸管免疫系において新たに同定されたRORgt陽性自然リンパ球の発生と機能の解析を進め、腸内免疫系維持機構の解明に多大な貢献を果たしてきている。RORgt陽性自然リンパ球は、RORgt陽性T細胞とは異なり腸内細菌非依存的に発生し、腸管におけるサイトカインIL-22の主要産生細胞であるとともに腸管上皮のバリア機構維持にも寄与することを明らかにした。澤氏の進める研究は、基礎免疫学として卓越しているのみならず、炎症性腸疾患の病態解明にもつながるものであり、今後の発展が大いに期待される。

鈴木 敬一朗「腸管IgAの産生機構とその粘膜上での役割」

(京都大学医学研究科AKプロジェクト)

<研究評価の内容とその理由>

鈴木敬一朗氏は、一貫して腸管粘膜におけるIgAの産生とその制御機構の解析を進め、優れた研究成果を次々挙げてきている。まず、培養不能な腸内細菌を16S RNAの塩基配列を解析する方法を先駆的に用い、IgA欠損マウスでは、セグメント細菌が異常増殖することを明らかにした。また、単離が困難であった濾胞樹状細胞FDCを解析し、これらが腸内環境因子を認識してIgA産生を誘導することを明らかにした。これらの結果は、腸管免疫応答の調節の理解に大きく貢献し、今後の研究の発展が大いに期待される。

手塚 裕之「腸管樹状細胞によるIgA生産誘導機構の解明」

(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体防御学分野)

<研究評価の内容とその理由>

手塚裕之氏は、一貫して消化管粘膜免疫の研究を行ってきた。腸粘膜関連リンパ組織にiNOSを発現する樹状細胞サブセットが存在することを突き止め、この細胞によるIgA産生誘導機構を明らかにした。また、IgA産生誘導機構における形質細胞様樹状細胞の質的優位性を明らかにした。現在、経口免疫寛容の制御機構や炎症性腸疾患の発症機構に関する研究を進めており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

馬場 義裕「カルシウムシグナルを介した免疫制御機構」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター分化制御研究室)

<研究評価の内容とその理由>

馬場義裕氏は、一貫して免疫細胞活性化シグナルの伝達における細胞内Ca2+の役割について研究し、特に、BCR刺激によるSykの活性化から小胞体Ca2+放出に至るBtkを経由するカスケードの同定や、小胞体タンパクSTIM1欠損マウスの作成と解析によるストア作動性Ca2+流入の肥満細胞の脱顆粒反応および制御性B細胞のIL-10産生における重要性の発見など特筆される成果を挙げてきている。これらの成果に基づき、STIM1機能制御分子の探求、そして制御性B細胞の炎症、自己免疫疾患との関連の追求を精力的に進めており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

第5回(2010年)

大洞 将嗣「抗原受容体刺激によるPLC-γ下流シグナルの活性化機構:Ras-MAPKとストア作動性カルシウム流入」

(東京医科歯科大学「歯と骨のグローバルCOE」)

<研究評価の内容とその理由>

大洞将嗣氏は、一貫してリンパ球の細胞内シグナル伝達の研究に取り組み優れた研究成果をあげてきている。特に、PLC-gが活性化されると細胞内2nd messengerとしてジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール3リン酸(IP3)が生成されるが,DAGは、RasGRPを介してRas-MAPキナーゼの活性化に、一方IP3は、Stim/Oraiを介してカルシウム流入に関与していることを、遺伝学的・生化学的研究手法を用いて、始めて明らかにした。その業績は現在、カルシウムシグナルとTリンパ球の分化・活性化、ひいては、自己免疫疾患との関連を精力的におこなっており、今後の研究の発展がおおいに期待できる。

常世田 好司「生体内における免疫記憶の維持メカニズムの解明」

(千葉大学大学院医学研究院 免疫発生)

<研究評価の内容とその理由>

常世田好司氏は、一貫して免疫記憶の維持機構に関する研究に従事し、優れた研究成果をあげている。まず、記憶B細胞(形質細胞)が造血幹細胞と同様に骨髄の微小環境(ニッシェ)によっていることを明らかにし、さらにこれまでの常識を覆し、記憶ヘルパーT細胞も骨髄内のニッシェに定着し続けること、IL-7産生ストローマ細胞がニッシェとして機能することを明らかにした。現在、この免疫記憶維持と自己免疫・アレルギー疾患の慢性化との関連を含めて研究を進めており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

新田 剛「胸腺微小環境におけるT細胞レパトア形成のメカニズム」

(徳島大学 疾患ゲノム研究センター 遺伝子実験施設)

<研究評価の内容とその理由>

新田剛氏は一貫して胸腺におけるT細胞分化制御の分子基盤に関する研究を行ってきた。これまでに、正の選択を受けた胸腺細胞が産生するRANKLと髄質上皮細胞のRANK、さらにCD40-CD40Lや抗原特異的な細胞間相互作用が髄質上皮細胞の形成に重要で、一方、CCR7を介する胸腺細胞の髄質への移動が、負の選択に必須であることを明らかにした。また、皮質上皮細胞に関しては、その胸腺プロテアソームがMHC class I結合性の自己ペプチドを産生することで、非自己抗原に反応性をもつCD8 T細胞のレパトア形成を制御することを示し、本領域の理解に多いに貢献した。新田氏は胸腺ナース細胞の研究にも着手しており、今後の研究の発展が多いに期待出来る。

野地 智法「粘膜免疫学を基盤とした、次世代粘膜ワクチン開発」

(The University of North Carolina)

<研究評価の内容とその理由>

野地智法氏は、一貫して粘膜免疫学を基盤とした粘膜ワクチン開発に関する研究に取り組み、これまでに「M細胞標的型ワクチン」や「コメ型ワクチン」といった、今後の経口ワクチン開発に新しい方向性とその実現化に向けて、大きく飛躍させる基盤的研究成果を挙げてきた。また、最近開発したカチオン化ナノ粒子は、効果的かつ安全に上気道粘膜免疫システムを活性化させることが可能な、経鼻ワクチンとしての新規抗原デリバリー技術であり、上記経口ワクチンと共に、今後の臨床応用に向けた研究が非常に期待されている。

長谷 耕二「粘膜表面の免疫監視に果たすM細胞の役割の解明」

(理化学研究所・RCAI 免疫系構築研究チーム)

<研究評価の内容とその理由>

長谷耕二氏は、腸管免疫系において、腸内での抗原取り込みに重要であるが分子的解析は殆どなかった腸管上皮M細胞の単離法を開発し、特異的分子の同定に成功した。その結果、大腸菌やサルモネラ菌などの細菌の取り込み受容体GP2や、細胞間を結ぶ膜ナノチューブの形成因子であるM-SecなどのM細胞特異的分子を世界に先駆けて同定し、その機能を明らかにした。これらの発見は、腸管免疫研究の飛躍的発展の礎として世界的に高く評価されており、今後の発展が大いに期待される。

第4回(2009年)

植松 智「小腸粘膜固有層のToll-like receptor 5を発現する樹状細胞の機能解析」

(大阪大学微生物病研究所)

<研究評価の内容とその理由>

植松智氏は、小腸粘膜固有層の樹状細胞による自然免疫・獲得免疫応答について研究を行ってきた。これまでに、小腸粘膜固有層のCD11chiCD11bhi樹状細胞が、細菌の鞭毛構成タンパク質であるフラジェリンを認識するTLR5を特異的に発現しており、有鞭毛細菌に対して自然免疫応答を誘導することを見いだした。さらにTLR5刺激依存的に抗原特異的なTh17細胞やIgA産生形質細胞を誘導することも明らかにした。植松智氏の業績は腸管における免疫応答の理解に重要な貢献であり、今後の研究の発展が大いに期待できる。

小内 伸幸「樹状細胞分化とホメオスターシス」

(東京医科歯科大学難治疾患研究所)

<研究評価の内容とその理由>

小内伸幸氏は、樹状細胞の分化機構の研究に従事し、Flt3キナーゼやその下流のStat3、転写因子のPU.1が樹状細胞分化過程に重要であることを血液前駆細胞への遺伝子導入や阻害剤を用いた薬理学的アプローチによって示した。また、マウス骨髄における樹状細胞前駆細胞を検討し、ミエロイド系の樹状細胞と形質細胞様樹状細胞に共通の前駆体が存在することを示した。その業績は樹状細胞の分化経路の理解に大きく貢献したとして高く評価されており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

金城 雄樹「NKT 細胞が認識する細菌由来糖脂質抗原の同定」

(国立感染症研究所)

<研究評価の内容とその理由>

金城雄樹氏は、一貫して微生物感染とNKT細胞に関する研究を行ってきた。マウスおよびヒトのNKT細胞が認識する細菌由来の糖脂質抗原を初めて同定することで、NKT細胞は微生物の構成成分を抗原として認識するという仮説を証明した。また、有機化学的および生化学的な手法をとりいれてNKT細胞による細菌認識機構について新たな概念を提唱した。さらに、NKT細胞の感染防御における役割や治療への応用の視点を持って研究を進めており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

篠原 久明「抗原受容体シグナルにおける NF-κB 活性化機構解析」

(理化学研究所・RCAI)

<研究評価の内容とその理由>

篠原久明氏は、一貫して細胞内シグナル伝達機構の研究に取り組み優れた研究成果をあげてきた。特に、B細胞抗原受容体を介するNF-kB活性化にTAK1が関与する事を初めて明らかにするとともに、NF-kBの活性化に正の増幅機構が存在する事を明らかにした。現在、B細胞抗原受容体を介したNF-kBの活性化機構のさらなる解明と数理モデルの構築を精力的に行っており、生体における免疫応答予測システムの樹立など、今後の研究の発展が大いに期待できる。

肥田 重明「好塩基球を介した免疫応答制御」

(信州大学大学院医学系研究科)

<研究評価の内容とその理由>

肥田重明氏は一貫して炎症とサイトカインに関する研究を続けて来た。これまでに転写因子IRF-2のI型インターフェロンシグナルの抑制機構とその欠損による皮膚炎症や好塩基球の異常増殖、Th2偏倚への影響などを明らかにしている。またさらに、IRF-2のIL-3の増殖シグナルに対する特異的抑制や好塩基球への影響などを示した。最近これらを発展させ、好塩基球のIL-4産生に対するIL-3シグナルにおけるFcRγ鎖の関与という発見をし、新たなシグナルのクロストークなど好塩基球のシグナル伝達機構の解明に大きな貢献をした。種々のアイディアに基づいた研究を推進しつつあり、今後の研究の発展が大いに期待できる。

第3回(2008年)

石井 健「核酸による免疫制御機構の解明」

(大阪大学微生物病研究所)

<研究評価の内容とその理由>

石井健氏は、一貫して核酸の自然免疫認識機構やそのアジュバントなどへの臨床応用研究に取り組み、優れた成果を挙げてきた。特にヒト型CpG DNA、B-form DNAなど免疫を制御する核酸の同定からその認識機構、そして生体での生理的意義まで明らかにしており、特筆に価する。これらの研究は国際的評価も非常に高く、ワクチン開発研究などにおける貢献が大いに期待される。

國澤 純「粘膜ワクチン・粘膜免疫療法の開発に向けた粘膜免疫システムの解明」

(東京大学医科学研究所)

<研究評価の内容とその理由>

國澤純氏は、大学院時代より粘膜免疫システムの解明、粘膜ワクチン・粘膜免疫療法の開発につながる研究を一貫して進めてきた。とくに最近、スフィンゴシン1リン酸が腸管分泌型IgAの産生など腸管免疫システムの制御に関与するとともに、食物アレルギーの発症にも寄与していることを明らかにし、注目を浴びている。これらの研究は新規の粘膜ワクチンやアレルギー治療法の開発に直結するものとして、今後の発展が大いに期待できる。

竹内 理「自然免疫による病原体認識メカニズムの研究」

(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)

<研究評価の内容とその理由>

竹内理氏は、自然免疫に関わる受容体であるTLRやRIG-Iファミリー分子群について研究を行ってきた。ノックアウトマウス作製により、TLRが認識する病原体成分やその認識メカニズム、さらには細胞質内RNA受容体であるRIG-Iファミリー分子のウイルス認識における役割を明らかにした。これらの竹内氏の業績は病原体認識受容体の役割の解明に重要な貢献をなし、今後の発展が大いに期待できる。

原 博満「CARD9とCARMA1を介した免疫細胞活性化の制御機構」

(佐賀大学医学部)

<研究評価の内容とその理由>

原博満氏は、ITAMモチーフを持つ受容体を介したNF-kBの活性化メカニズムの研究に取り組み、MagukファミリーのひとつであるCARMA1が、成熟リンパ球の抗原受容体を介したNF-kBの活性化に必須の分子であることやBcl10複合体を免疫シナプスに動員することを明らかにした。さらに樹状細胞などの骨髄系細胞のITAM受容体を介したNF-kBの活性化にはCARMA1とは異なるCARD9がBcl10複合体の動員に必須であることを明らかにした。CARD9やCARMA1によるITAM受容体を介したNF-kB活性化の制御法の開発は、感染防御ばかりでなく、Bリンパ腫や自己免疫疾患の治療法への応用が期待され、今後の発展が大いに期待できる。

前仲 勝実「生体防御に関わる細胞表面受容体の分子認識機構」

(九州大学生体防御医学研究所)

<研究評価の内容とその理由>

前仲勝実氏は、免疫受容体の構造生物学研究を一貫して行ってきた。LILR (Leukocyte Ig-like receptor)がHLA-Gとの結合すること、そしてCD8とMHC class Iの結合を阻害すること等を明らかにし、T細胞の活性化調節や機能制御の構造基盤を明確に示し注目を浴びている。構造生物学の見地から免疫の認識現象を理解し、さらに治療へ応用の視点を持って研究を進めており、今後の研究の発展が大いに期待できる。

第2回(2007年)

岡崎 拓「免疫抑制受容体 PD-1 による自己免疫疾患発症制御機構の解析」

(京都大学大学院医学研究科)

<研究評価の内容とその理由>

岡崎 拓氏の主要業績は、PD-1欠損マウスに自然発症する拡張型心筋症の原因となる自己抗体を解析し、その標的抗原トロポニンIを同定したことである。さらに、PD-1欠損マウスの遺伝的背景を変えることによって、I型糖尿病など別の自己免疫病を惹起できることを示した。これらの業績は、免疫応答の分子機構のみならず、免疫病の理解とその治療に貢献するものであり、今後の発展がおおいに期待できる。

河合 太郎「自然免疫によるウイルス認識と活性化機構の解析」

(大阪大学微生物病研究所)

<研究評価の内容とその理由>

河合太郎氏は自然免疫におけるTLR7/9やRIG-I/Mda5を介したウイルス検知機構の研究に従事してきた。これまでに、pDCにおいてはMyD88とIRF7が会合し,TLR7/9を介した刺激依存的なIRF7のリン酸化がI型インターフェロン発現に重要であることを明らかにした。また、細胞内ウイルス認識受容体であるRIG-IやMda5の下流で機能する新規アダプターIPS-1を同定し,そのノックアウトマウスの解析を通じてその機能を明らかにした。河合氏の業績は自然免疫におけるウイルス認識機構の理解に重要な貢献であり、今後の発展がおおいに期待できる。

堀 昌平「制御性T細胞による優性免疫寛容機構の研究」

(理化学研究所・RCAI)

<研究評価の内容とその理由>

堀昌平氏はポルトガルに留学以来、制御性T細胞の研究に取り組み、帰国後京都大学および理化学研究所において、Foxp3が制御性T細胞のマスター遺伝子であることを明らかにした。これは制御性T細胞の分子基盤を明らかにし、他のT細胞と異なったものであることを示したのみならず、今日の制御性T細胞研究を飛躍的に発展させ、さらに将来的な制御性T細胞の治療応用の可能性を示したなど、多くの点で非常に重要な業績といえる。さらに掘氏はFoxp3変異マウスによる自己免疫疾患の研究を進め、その過程で、制御性T細胞の数は、末梢におけるhomeostatic proliferationによりその恒常性が維持されていることを明らかにしており、今後の発展が大いに期待できる。

山崎 晶「T細胞抗原受容体を介する分化・活性化の制御機構」

(理化学研究所・RCAI)

<研究評価の内容とその理由>

山崎晶氏はTCRをはじめとするITAM受容体を介する多様な細胞応答の分子機序に関する研究を一貫して進めてきた。TCRがリガンド(抗原)の質に応じてITAM受容体直下のシグナル分子を使い分けていることを明らかにした。更に、緻密な実験結果を基に、pre-TCRが何故リガンドを要求しなくともシグナルを伝達でき、TCRに置き換わることによりリガンド要求性が出現するかに関して、新規メカニズムの提唱にまで至っており、今後の発展がおおいに期待できる。

山本 雅裕「生体レベルにおけるTLRシグナル伝達機構の解明」

(大阪大学大学院医学系研究科)

<研究評価の内容とその理由>

山本雅裕氏は、病原体認識に重要な働きをしているToll様受容体(TLR)のシグナル伝達機構に関する研究で、次々と画期的な研究成果をあげてきた。TLRシグナル伝達に関わる2つの新規アダプター分子(TRIPとTRAM)を同定し、さらに一連のノックアウトマウスを樹立、解析することにより、アダプター分子の使い分けによってTLRシグナルの特異性が決定されていることを見事に証明した。これら一連の研究は、国際評価も極めて高く、今後の発展が大いに期待できる。

第1回(2006年)

小笠原 康悦「NK細胞認識機構の研究」

(国立国際医療センター研究所 難治性疾患研究部 臨床免疫研究室)

<研究評価の内容とその理由>

小笠原康悦氏は、一貫してNK細胞の研究を続けてきた。最初に、NK細胞の分化に転写因子IRF-1が必須であることを明らかにした(Nature, 1998)。その後、NK細胞の標的細胞認識機構の研究に取り組み、NK活性化レセプターであるNKG2Dが、NK細胞の機能発現に関わる主要分子であること(Immunity, 2003)、NKG2Dとそのリガンドとの相互作用が自己免疫性糖尿病の発症にきわめて重要であること、特に通常では発現されないNKG2Dリガンドが糖尿病発症直前のNODマウスの膵臓に異常発現されること(Immunity, 2004)、さらに、抗NKG2D抗体の投与で完全に糖尿病発症を抑制できること(Nat. Med., 2004)を明らかにした。これらの一連の研究は糖尿病の病態解明とその制御法への道を開く優れた業績で、高く評価されており、今後の発展が大いに期待できる。

椛島 健治「脂質メディエーターのアレルギー・免疫における新規役割の解明とその臨床応用への試み」

(産業医科大学 皮膚科学)

<研究評価の内容とその理由>

椛島健治氏は、プロスタノイドのアレルギー、免疫における役割を解析した。特にトロンボキサンがT細胞の増殖・活性化を抑制し、アトピー性皮膚炎などの炎症を抑制することや、PGE2がランゲルハンス細胞を活性化し、遅延型過敏反応の形成に関与することなどを明らかにした。また、B細胞由来のリンフォトキシンが樹状細胞の増殖を促すことを見出している。これらの研究は、Nat. Immunol., Nat. Med., Immunityなど、数多くの一流国際誌に発表されており、今後の発展が大いに期待できる。

本田 賢也「IRF転写因子活性化の時空間制御」

(東京大学 大学院医学系研究科 免疫学講座)

<研究評価の内容とその理由>

本田賢也氏は、TLRシグナルに関して、MyD88をはじめとするアダプター分子群が如何なる制御機序を用いてIRF転写因子群を活性化するかに関する研究で画期的な成果を挙げてきた。特に本田氏は、GFP等蛍光蛋白質、及び蛋白質・蛋白質の相互作用をFRETによって観察するという研究手法を導入し、アダプター分子・転写因子の相互作用の時空間的制御機構を明らかにし、免疫学研究に新しい視点を導入した。これらの研究は、国際的評価も非常に高く、Nature, Proc. Natl. Acad. Sci, USAなどの一流誌に発表されており、今後の発展が大いに期待できる。

安友 康二「Tリンパ球の分化・活性化調節機構とその破綻機序に関する研究」

(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 生体防御医学分野)

<研究評価の内容とその理由>

安友康二氏は、T細胞が外来抗原と自己抗原を識別する分子機構の解明と、その制御破綻による自己免疫疾患の発症に関した研究を一貫して行い、優れた研究成果をあげてきた。胸腺内T細胞セレクションにおいてTCRからの刺激の長短が、CD4T細胞、CD8T細胞の運命決定を行うことを明らかにした(Nature, 2000)。その後、DNaseIの遺伝子変異による全身性エリテマトーデス(SLE)の発症機序の解析から自己抗原の蓄積が自己免疫疾患の発症をもたらすという概念を実証した(Nat. Genet., 2001)。自身の基礎研究の成果から寄生虫感染症や免疫難病の発症機序の解明をめざし、その克服を指向した安友氏の研究は、今後の発展が大いに期待できる。

山下 政克「クロマチン構造変換によるTh2細胞の分化と機能維持機構」

(千葉大学 大学院医学研究院 免疫発生学)

<研究評価の内容とその理由>

山下政克氏は、アレルギー疾患発症の分子機構をTh2細胞の分化機構を中心として研究してきた。そしてこれまでに、Th2細胞分化におけるT細胞抗原受容体シグナルとサイトカイン受容体シグナルとのクロストーク、転写因子GATA3によるTh2サイトカイン遺伝子座のクロマチンリモデリングの誘導と維持機構などを明らかした。さらに最近は、Th2細胞がメモリー細胞として機能分化しかつ維持されるのにトライソラックス遺伝子群のひとつであるMLLが関与することを明らかにしており(Immunity, 2006)、今後の発展が大いに期待できる。

(五十音順)