日本免疫学会女性免疫研究者賞

JSI Women Immunologist Award

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歴代受賞者

第10回(2023年)

大谷 直子「細胞老化随伴分泌現象関連因子による抗腫瘍免疫抑制機構の解明」

(大阪公立大学大学院医学研究科 分子生体医学講座 病態生理学)

<研究評価の内容とその理由>

大谷直子氏は、これまで細胞老化の分子基盤の解明に関する研究に従事し、細胞老化および細胞老化随伴分泌現象(SASP)ががん微小環境において果たす役割について新規知見を継続的に発表してきた。中でも、大谷氏らが見出した腸内細菌とSASPの関係において、高脂肪食による腸内細菌の代謝物の変化が肝臓で星細胞の細胞老化を誘導し、星細胞のSASPによって肝臓の発がんが促進されるという新規概念は、細胞老化とがん研究領域に大きなインパクトを与えた。その後も腸内細菌と細胞老化の関連、細胞老化による免疫細胞の制御機構について精力的に研究を継続しており、免疫学会を担う女性研究者として更なる活躍が期待されることから、第10回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞にふさわしいと判断された。

第9回(2022年)

山崎 小百合「制御性T細胞と樹状細胞による免疫制御の研究

(名古屋市立大学大学院医学研究科 免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

山崎小百合氏は、これまで制御性T細胞と樹状細胞の相互作用に関する研究を一貫して行い、多くの優れた研究業績を挙げてきた。まず、制御性T細胞が自己免疫だけではなく腫瘍免疫も抑制するという重要な発見に貢献し、さらに、制御性T細胞が樹状細胞による抗原提示で増殖することを見出した。これら一連の研究から、自己免疫疾患、アレルギーなどの免疫疾患に対して、抗原特異的制御性T細胞により制御できる可能性を示す研究へと発展しており、今後も発展が大いに期待できる。最近は、乾癬などに高い効果を示す紫外線照射に着目し、紫外線照射による皮膚の制御性T細胞と樹状細胞の相互作用も解明した。さらに紫外線誘導性の制御性T細胞がAmphiregulinやオピオイド前駆体などを発現し、表皮の修復を促す事を明らかにした。これらの理由から同氏を第9回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。

第8回(2021年)

渋谷 和子「T細胞の分化・活性化機構と疾患制御に関する研究

(筑波大学 医学医療系 免疫制御医学研究室)

<研究評価の内容とその理由>

渋谷和子氏は、これまでT細胞の分化と活性化制御機構に関する研究を一貫して行い、多くの優れた研究業績を挙げてきた。まず、ヘルパーT細胞の分化に関する研究から、Th1とTh2が独立したサブセットであることを証明、サイトカインによる分化制御機構解明に貢献した。さらに、サイトカイン非依存性のヘルパーT細胞分化機構に関する研究を展開し、ナイーブT細胞上に発現するDNAM-1とLFA-1が複合体を形成し、これを介するシグナルがTh1細胞を分化誘導することを示した。この知見を基盤として、DNAM-1/LFA-1複合体が腫瘍の排除にはたらく事や、TIGITとDNAM-1のリガンド競合が制御性T細胞の活性化を制御し炎症性疾患の病態にも寄与することを見出している。これら一連の研究は、T細胞の分化、活性化制御の基礎的研究から、疾患制御を見据えた研究へと発展しており、今後も発展が大いに期待できる。これらの理由から同氏を第8回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。

第7回(2020年)

三宅 幸子「インバリアントT細胞を介した炎症性疾患制御に関する研究」

(順天堂大学医学部免疫学講座)

<研究評価の内容とその理由>

三宅幸子氏は、一貫してインバリアントT細胞の研究に従事し、その機能と疾患への関与に関して優れた研究成果をあげてきた。まず、iNKT細胞が多様な糖脂質抗原を認識し、その違いに応じて異なるサイトカインを産生することを明らかにした。特に、合成糖脂質OCHがTh2サイトカインを選択的に誘導することを見出し、多発性硬化症、関節リウマチ、I型糖尿病、炎症性腸疾患を軽症化することを示した。さらにこの成果を臨床に応用するため、多発性硬化症、炎症性腸疾患を対象に臨床治験を実施している。一方、セミインバリアントTCRを有する細胞亜集団を早くから見出しており、現在のMAIT細胞の疾患との関わりを明らかにしてきた。これらの一連のインバリアントT細胞における先駆的研究は、基礎免疫学の知見を臨床応用に繋げる医学的にも価値ある成果であり、今後の発展が大いに期待される。

第6回(2019年)

新藏 礼子「腸管IgA抗体による腸内細菌制御機構の解明」

(東京大学定量生命科学研究所 免疫・感染制御研究分野)

<研究評価の内容とその理由>

新蔵礼子氏は、一貫して抗体遺伝子の遺伝子組換え、体細胞突然変異に関する研究に従事し、多くの優れた成果を発信してきた。突然変異マウスであるaly/alyマウスがクラススイッチおよび体細胞突然変異が障害されていることを見出し、さらに、その原因遺伝子がNIKであることを同定した。留学先でクラススイッチにおける免疫グロブリン遺伝子S領域の重要性を初めて明らかにした後、帰国後、AID分子が持つ、クラススイッチと体細胞突然変異という2つの機能を分離できるAID変異体の同定に成功し、体細胞突然変異の分子機構解明に大きく貢献した。またこの成果をもとに、腸管粘膜防御におけるIgAの体細胞突然変異の重要性を明らかにし、高親和性IgAが認識する細菌分子およびそのエピトープを同定した。 これら一連の研究結果は、抗体遺伝子多様性獲得の分子機構解明という基礎生物学的に重要な進歩であることに留まらず、新たな抗体医薬開発への貢献が期待されるスケールの大きな研究成果であり、今後もさらなる発展が期待できる。

第5回(2018年)

反町 典子「オルガネラホメオスタシスを機軸とした炎症制御機構の解明」

(国立国際医療センター研究所 分子炎症制御プロジェクト)

<研究評価の内容とその理由>

反町典子氏は、リンパ球や自然免疫細胞の免疫応答を制御する受容体に関する研究に従事し、炎症の分子機構の理解と治療応用に資する研究成果をあげてきた。抑制型NK受容体LY49QがエンドソームにおけるTLR9シグナルを介してpDCにおけるインターフェロン産生に関わること、エンドソームにおいてケモカインシグナル維持に関わり好中球制御に関わることを解明した。また、リソソーム局在型アミノ酸トランスポーターであるSLC15A4に注目し、エンドソームにおけるTLR9シグナルとインターフェロン産生制御およびNOD1リガンドの細胞質輸送に関わることを解明し、炎症性腸疾患への関与を明らかにした。マウスSLEモデルでは、SLC15A4がエンドソームpHを制御してmTORC1活性を制御しTLR7依存性インターフェロン産生をコントロールすることを解明した。以上のように、反町氏は、NK 受容体の研究およびオルガネラホメオスタシスに注目した炎症制御機構解明において独自の視点を提供し免疫学の発展に大きな貢献をし、今後の発展が大いに期待される。また、学会活動を通じ日本の免疫学の周知・活性化にも大きく貢献した。これらの理由から同氏を第5回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。

第4回(2017年)

COBAN, Cevayir「Immunology of host-Plasmodium parasite interactions」

(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター マラリア免疫学)

<研究評価の内容とその理由>

COBAN, Cevayir氏は、一貫してマラリア感染症に対する治療・診断法、ワクチン開発の研究を行ってきた。マラリア原虫によるヘムの代謝産物ヘモゾインがTLR9のリガンドであることを見出し、脳マラリアでは宿主にとって負の方向に作用すること、一方で効果的なワクチンアジュバントになり得ることを示し企業に導出した。また、鉄調節分子リポカリン2が抗マラリア免疫応答に重要なことも示した。また磁気共鳴イメージングや多光子顕微鏡を駆使して、これまで知られていなかった脳の嗅球が脳マラリアを引き起こす起点となる脆弱な標的組織であることを示した。さらにマラリア感染が骨粗鬆症の原因になることをも見出し、自然免疫系を介する誘導機構を明らかにした。  これら一連の研究成果は、マラリア感染病態の解明だけでなく、マラリアワクチンによる予防、嗅球を標的組織とする脳マラリア治療法の開発、マラリア感染の副作用である骨粗鬆症の改善といった明確な研究及び治療の方向性を提示しており、今後の発展が大いに期待される。  これらの理由から同氏を第4回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。

第3回(2016年)

片桐 晃子「リンパ球動態制御機構の解明」

(北里大学 理学部 生命科学科 免疫学講座)

<研究評価の内容とその理由>

片桐氏は、免疫系細胞の移動の分子機構とその生理的・病理的意義の独創的な研究を展開しており、細胞移動制御の免疫学的理解に大きく貢献している。まず、ナイーブリンパ球が高内皮細静脈(HEV)上に提示されたケモカインにより速やかに低分子量Gタンパク質Rap1を活性化させ、インテグリンLFA-1の接着活性が上昇することでリンパ節内に移動できることを発見した。  さらにRap1下流の分子としてRAPLおよびMst1を同定してこの一連のシグナルカスケードがリンパ球の極性形成にも重要であることを示し、これらの業績は国際的にも特に極めて高く評価されている。また、このカスケードに関与する分子のT細胞での欠損マウスがリンパ球減少症を来し、末梢性寛容が破綻して自己免疫疾患を発症することを示した。最近ではRap1シグナルが腸管恒常性の維持にも関与することを示すなど、Rap1を基軸にリンパ球移動の分子機構とその病態との関連を一貫して追究し、この分野の先駆的な業績を次々と挙げており、今後の発展が大いに期待される。  これらの理由から同氏を第三回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。

第2回(2015年)

東 みゆき「共刺激分子の機能解析と免疫制御法開発」

(東京医科歯科大学)

<研究評価の内容とその理由>

東みゆき氏は、大学院生時代に、T細胞機能分子に関する研究に携わって以来、T細胞の免疫制御に不可欠な働きをしている補助刺激分子機能とその病態への関与について研究を続けてきた。特に、発見当時接着分子のひとつと考えられていた CD28分子が T 細胞の抗原特異的応答を制御する重要な分子であることを発見すると共に、 CD28受容体の第2リガンド分子としての CD86 (B7-2)を世界に先駆けて同定した。さらに、免疫寛容、がん免疫、自己免疫、移植免疫などについて、国内外の多くの研究者との共同研究を精力的に行うことにより、この CD86分子の生物学的な役割や機能を明らかにしてきた。免疫の教科書に記述される免疫寛容における CD28/CTLA-4:CD86/CD80経路の関与や、アバタセプトをはじめとする分子標的薬の臨床応用に、それらの研究成果が大きく貢献している。また、免疫学分野の教授としての研究・教育に加え、学長特別補佐や副理事として大学の運営にも関与すると共に、日本学術会議連携会員および会員として、学術の発展にも取り組んでいる。  これらの理由から同博士を第2回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。

第1回(2014年)

稲葉 カヨ「樹状細胞の機能解析」

(京都大学)

<研究評価の内容とその理由>

稲葉カヨ氏は、その発見から応用に至るまで一貫して樹状細胞の研究を続けてきた。 80年代当初、それまで知られていなかったマクロファージと異なる樹状細胞が、T細胞の活性化、抗体産生応答の誘導に重要であることを発見してから、樹状細胞による抗原提示とT細胞の活性化のメカニズムを次々と明らかにし、樹状細胞の特異的受容体と抗原処理のメカニズムも勢力的に解明している。さらに、樹状細胞の分化の機構を解明し、末梢組織から樹状細胞が培養・増殖させることができる技術を開発し、樹状細胞の培養を可能にすることにより今日の樹状細胞を用いた抗がん細胞療法への進展に繋がる大きな貢献を成し遂げた。稲葉氏は、こうした研究を、グローバルな観点から広く勢力的に国際共同研究を進めてきたとともに、数ない女性の国立大学教授として、また数少ない免疫女性研究者を代表して活発に活動され、女性研究者の促進を積極的に進めている。これらの理由から同博士を第一回日本免疫学会女性免疫研究者賞受賞者とした。